紅華の花嫁
ピィィィィッ。
トメの鳴き声を拾い、近くの岩に捕まっていた彩が空にいるトメを見上げた。
「お、トメさんの合図きた。莉良ーっ!火の準備出来たみたいだから俺ちょっと行ってくるなー!」
「ちょぉっと待ったぁーッ!」
彩が浜に向かって泳ぎだそうとした瞬間、沖の方から泳いできたであろう莉良が勢いよく水しぶきを上げて彩の首にしがみついた。
「彩マスもっかいだけ泳ぎ勝負しよ!いっぱいハンデもらってるのに1回も勝てないなんだなんてやだー!!」
「あーとーで。続きは昼から」
「もっかいだけ!次向こうの岩までじゃなくて手前の海草いっぱい生えてる所で折り返しにして泳ごう!」
「そんなに言うならいいけど。その代わり港で買った新鮮魚介類で作ったパエリヤを食べられる時間がその分遠のくぞ、いいのか?」
「…………………………………よくない」
勝負心より食い気の方が勝ったらしい。莉良は彩の首からしずしずと離れていく。
「よーし、んじゃ昼飯の後な。もう少ししたらその辺にいる呂揮達連れて戻ってこいよー!」
「分かったー!」
砂浜に着いた彩に向かって莉良は大声で返事をすると、海から顔を出した状態で水をかきながらゆっくりと泳ぎ始めた。
神聖な地といわれている国アユタヤ。
恒例となっている彩命名『色即是空夏季プチ旅行』今年の旅先である。
到着してから今まで彩とどっぷり泳ぎの勝負を続けていた莉良だったが、相当のハンデを貰って
いたにも関わらず1勝も出来ないまま昼時になってしまい、事実上彩に勝ち逃げされる
形になった莉良の職位は『アユタヤ亀子ちゃん』になっていた。
「よーしお昼ご飯までもうちょっと泳ご、脱・亀子ちゃーんっ!!」
「莉良、こっちこっち!」
意気込み泳ごうとした時ふと呂揮の声が聞こえてきょろきょろと辺りを見渡してから莉良は少し離れた
桟橋の上から手招きをしている呂揮の姿をみつけ、その側へ泳いで近づいていった。
「どしたのぉ?」
「莉良、泳ぐならここから反対側行って泳げ。ばちゃばちゃやってたら逃げちゃうかもしれないから」
「逃げるって何が?」
「ほら、あれ」
呂揮が首を向けた方向には琉風の姿。
桟橋の一角に腰掛け、海水パンツの上からモンク装束の服を羽織り日差しよけに
フードを被った琉風の手には竿が握られている。
「あーっ琉風釣りしてるー!釣れた?釣れたの?」
ざばっと海から上がった莉良は琉風の元に駆けて行き、そのまま隣に腰掛けると琉風はふるふると横に首を振った。
「まだ釣れてないよ。魚はいるみたいなんだけど」
呂揮も反対側に腰掛け同じように観察するが、海に浮かんだウキはピクリとも動かない。
「ねぇ、これって本当に釣れるのぉ?ってか魚なんていたぁ?」
実際に周辺に魚がいるのかどうか確認しているのか桟橋から身を乗り出して海面を眺める莉良に頷いて見せる。
「竿を貸してくれた人の話ではたまにハズレもあるけど釣れるって。もし釣れたら
史乃がその場でさばいて炭火焼きにしてくれるって言うからお昼までには
せめて1匹くらい釣りたいなって思ったんだけど……………あっきた!」
「……………………………………あ……」
驚きと喜びに混じった琉風の声に反して呂揮の声は若干がっかり気味だ。
琉風が引き上げた竿の釣り針には直径5pほどのかわいい魚がぴちぴちと跳ねている。
「呂揮、見てみて釣れたよこれ!」
「うん、釣れた事には釣れたけど……」
嬉々として話す琉風へどう返事したらいいのか困った顔をしている呂揮に近づいてくる一つの影。
「よぉ・状況変わったか?」
先程まで海に潜っていたのだろうか水をしたたらせた短い髪をかき上げ影の主である理が3人の居る場所で止まる。
「理これ!今俺釣ったんだ!」
「………あ?」
ぽちゃんっ。
理は小さな魚を見るや否や竿の針にかかっている魚を外すとぽちゃんと海の中に逃がしてしまう。
「あっ!理なんで逃がすんだよ!」
「小せぇ・あれじゃ昼飯の足しにもなんねぇだろ」
「そういうコトは何獲ってきたのぉ?」
莉良が理の腰についている網袋を勝手に開くとその中には大量の大きなエビがぴちぴちと動いていた。
「わぁお!すごー!」
「おーい現地材料まだかー?」
莉良が感嘆の声を出していると、砂浜で炭火の準備をしていた史乃が近づいてきたので
莉良はエビの入った袋を史乃に向かって広げて見せた。
「エビいっぱーい!!」
「そーかそーか。でけーし塩焼きにしたら美味そうだな。食いたい奴挙手ー」
「はーい!!」
一部声付きで全員の手が上がった。
「史乃ーっそろそろ肉炙るから頼むー!俺だと火加減よくわかんねー!」
史乃の来た方向と同じ所から今度はばたばたと彩が走ってくる。炭火へ
空気を送り込むのに利用していたのかその手にはミョグェの扇子が握られていた。
「お、そういえば琉風は魚釣りしてたんだったな。どうだ?」
「ごめんなさい。釣れたんですけど小さいって言って理が逃がしちゃって…」
「そっかそっか、気にすんな!琉風が昨日崑崙で狩り頑張ってくれたお陰で今日は美味い炙りチーズが食えるんだからな」
しょんぼりしている琉風の背中を彩が励ますようにぺしぺし叩いてやり、
それから理が腰から下げている大量のエビに目をとめた。
「おっ今年の現地素材はエビか」
「でけーし塩焼きにして食うかーって話してたとこー」
史乃の話をふんふんと聞きながら彩が考えること数秒。
「なぁこれさ、今日持ってきたマッシュルームと一緒にオイル煮にしても美味いんじゃないか?食いたい奴挙手ー!」
「食べまーす!!」
やはり一部声つきで全員の手が上がった。
「じゃあ今日の昼飯メニューはエビの塩焼きとオイル煮追加な。オイル煮用のエビのカラむくから全員手伝えよー!」
「了解マスター!!」
全員の返事と共にばたばたと足音を立てて歩いていくその桟橋の下で、『難を逃れた』大きな魚がぴちゃんとはねた。
* * *
「ん?莉良と琉風両方ダウンかー?」
向かい合うようにして眠っている莉良と琉風の身体に桜子がバスタオルをかけているのを、
カートから出した酒の瓶を手に史乃が問う。
「うん。美味しいご飯お腹いっぱい食べて、いい風吹いて来たら気持ちよくなったみたい」
彩は串に刺し残り火で炙ったチーズのかけらを最後だから食っちまえよと隣にいる
史乃に食べさせてやりながら空を仰ぎ日の高さを確認した。
「今日はここに泊まりでまだまだ時間あるし、昼寝してからだってたっぷり遊べるから大丈夫だろ」
「リィくん、私達席外した方がいい?」
足の砂をはらい立ち上がりかけた桜子に理は首を振りつつ煙草を咥える。
「いや・今日はそのまま寝かしとけ。今寝てた方が都合イィからな」
「何が都合がいいんだよリィ」
2人の会話の意図が全く分からなかった彩が次はオイル煮の残りを史乃の口へ運んでやりながら会話に入ってくる。
「今寝ておけば夜・そう簡単にはヘタれねぇだろうし?」
理の返答でますます意味が分からなくなったのか彩は難しそうな顔をして首を傾げた。
「ん?夜何か予定でもあるのか?」
本当に分からないらしく大真面目に聞いてくる彩に、彩が唇に押し当ててきたエビを頬張りながら史乃は苦笑する。
「あーあー夜の予定とか聞いてきちまったよーこの人は」
「彩、予定っていうのはせっ」
直前まで全く分からなかったが頭の文字で瞬時に悟ったらしい。彩はすぐに一言だけ発した桜子の言葉を大声で遮った。
「どわぁああああ言わんでいい言わんでいいッッ!!!」
「なー彩マス」
「史乃っお前も何か言ってやれっ!通りすがりの人がいるかもしれないのに
らこの奴とんでもない事口走ろうとしてたんだぞ!」
「彩マスも今から昼寝しとくかー?夜SEXする体力つけるために」
「言ってるそばからお前はぁぁッ!リィやらこが聞いてる前でSEXとか言うなぁ!!」
「っつーか、2人ともいねーぞ?」
「えっ」
気が着くと莉良と琉風が相変わらずすやすや寝息を立てており、側にいたはずだった理も
桜子の姿がいつの間にか見えなくなっていた。
「なー?莉良も琉風もぐっすりだし言っても大丈夫だって」
「だからっ通りすがりの人がいるかもしれないだろ!」
「じゃー言うのやめる。だから…キスしよ?」
「史乃…お前酔って……………んッ…」
彩の続きの言葉は史乃の唇によって塞がれてしまった。
* * *
「…ん?」
呂揮が桟橋の上に腰かけ、ぱちゃぱちゃと足先を海に浸しながら水平線をぼんやりと
眺めていると、急に近くの海面がぶくぶくと泡立ち始めた。
『プリザーブ!!』
ざぱんっ。
モンスターでも湧いたのかと思いクローンスキル上書き防止スキルを発動させて
身構えたが、姿を見せたのは桜子の頭だった。
「あ、らこさん」
「潜水して呂揮くん驚かせよう作戦成功」
「本当びっくりしましたよ…主にスキル上書き的に」
呂揮に手を引いてもらい海から上がった桜子は腰のパレオを軽く絞ってまた足先で水遊びを始めた呂揮の隣に腰掛ける。
「呂揮くんは何してたの?」
「泳ぎ疲れでちょっと休憩してた所です。眺めいいんですよここ」
「そっか。泳いでも気持ちいいけど景色見ながらのんびりするのもいいよね」
「はい。地域柄でしょうか、すごくゆったりした気持ちになれます」
「そっか良かった。元気ないからちょっと心配してたんだ」
「別に…そんなことはないですよ」
「本当は昨日澪と会える筈だったんでしょう?」
最初否定していた呂揮だったが澪の名前が出ると俯き僅かに切なそうな顔をする。
自分の今の表情に自覚もあり、ごまかせる相手でもひた隠しにするまでもないと思ったのか素直に頷いた。
「はい。でも神器作成の交渉が少し長引いてるみたいで…昨日は結局会えなかったんです」
「そろそろ成立しそうだって彩が言ってたからもう少しだと思うよ」
「そうですか…」
「でもその間だって呂揮くんが逢いたいって言えばきっと予定変えてでも逢いにきてくれると思うんだけどな」
「それはできません。嫌なんです、あの人を困らせて重荷になる存在にだけは俺絶対なりたくないから」
「そうだよね、言えない……よね。さみしい、逢いたい――――なんて」
「…………!!……ごめんなさいっ!」
膝を抱えて呟いた桜子の横顔を見て呂揮は反射的に詫びていた。
「俺だけがこういう思いしてる訳じゃないのにらこさんの事全然考えないで…!」
「いいんだよ。優しいね呂揮くんは」
なでなでと頭を撫でられ呂揮はちょっと照れくさそうに下を向く。
「優しいいい子の呂揮くんにはきっとご褒美が当たるよ」
「ご褒美…ですか?」
「うん、ご褒美。とっても素敵なね」
桜子はそれ以上何も言わずただにこにこ笑っている。
長年の経験から何か企んでいるような予感をかきたたせる笑顔だとは思ったが、
その時の呂揮はあえて問いただすような事はしなかった。
* * *
「………………」
広いゆったりとした空間。派手すぎず、それでいて艶やかな装飾。色とりどりの花を
散りばめられた天蓋つきの広いダブルベッド。
呂揮は通された部屋を一通り見渡した後、がっくりとその場にしゃがみこんでうなだれた。
「なんだよこの新婚さんいらっしゃいませ仕様…らこさん、御褒美ってまさかこれのことなんですか…?」
大きくため息を吐いた後覚悟を決めて部屋の中央に進み、ソファの上に荷物を放ると
天蓋から垂れる薄い布を軽く払ってベッドの隅に腰掛けた。
2人部屋を4つ予約していたという話を聞いた呂揮は迷わず1人で部屋を使う事を申し出た。
桜子と莉良の同性同士を引き離す訳にはいかないし、史乃と彩、理と琉風とでそれぞれ
パートナーが決まっている中に飛び込むほど呂揮も野暮ではない。
今頃各々の割り当てられた部屋で思い思い楽しんでいるであろう中、今更部屋を変えてくれなどとはとても言えなかった。
なんとも気恥ずかしいこの部屋に今晩我慢して泊まるしかない。
「―――あ」
ベッドに寝転んだ所で感じた香りに呂揮はその香りの元を探す。
それはベッドサイドに置かれている香炉からだった。
「これ…澪マスが使ってるのと同じだ」
くんと鼻をきかせ、やはり間違いではないと確信する。
澪は明亭の自室で香を焚く事があり今この部屋で焚かれているものもまったく同じ香りだったのだ。
同時、その香を使っていた澪の事を思い出し呂揮はベッドの上で蹲る。
本当は昨日会える筈だった。呂揮は明亭の澪の部屋でその時を待っていた。
それが神器の交渉が思いのほか長引いたせいで、時間になっても澪は戻ってこなかったのだ。
『明日アユタヤに泊りがけで海水浴に行くんだろう?遅くなるから今日はもう帰りなさい』
どんなに遅くなっても帰ってくるまで待つつもりだったが澪にそう言われ呂揮は何も言う事は出来なかった。
仕方ないと分かっていた。迷惑をかけたくないとも思っていたからこそ何も言わなかった。
「…でも…さみしい」
呂揮の口から小さく零れる本音。
「貴方に逢いたい、ほんの少しでいいから今すぐ逢いたい……澪」
「呼んだ?」
ぱちっと目を開いてすぐ目の前にある顔を一瞬呂揮は疑った。
「澪マスッ!?」
がばっとベッドから起き上がりもう一度見るが幻ではない。呂揮のいるベッドの脇に立っているのは澪だった。
「どうして澪マスがここに…」
「だって呂揮、今あなたにあいたいのスキル使ったでしょ」
「俺にそんなスキル実装されてません!!」
思いっきり突っ込む様に心地よさげに澪は呂揮の頬を撫でた。
「漸く交渉成立してね。もうほんの少しも我慢出来なくてここまで来ちゃったよ。早く呂揮に逢いたくて」
「……っ……」
呂揮は澪に勢いよく抱きつき澪の身体が傾くが、澪は抵抗もせずにそのままベッドにもつれ倒れていった。
「…………嬉しい」
ぽつりと呟く呂揮の声。
「俺も…澪にすごく逢いたかったから…ここまで来てくれたのがすごく嬉しい」
「寂しかった?」
「……………」
「呂揮。俺と逢えなくて寂しかった?」
澪は沈黙を許してはくれない。少しだけ迷った後ずっと心に溜め込んでいた本音を呂揮は吐き出していた。
「…寂しかった…昨日だって本当は帰りたくなんてなかった…遅くなってもいいから
澪が帰ってくるまで…会えるまで待っていたかった…!」
押し倒し、のしかかる呂揮の背中に回し望みを叶えるかのようにそのまま抱きしめる。
「いい子だ。たまにはそうやってわがままを言いなさい?」
澪は小さく笑い涙を浮かべている呂揮に優しく口付けた。
「んっ…ん…」
唇を啄ばむ甘い口付けは徐々に深くなり、呂揮の背中に回っていた澪の手は器用に呂揮の服を脱がし始める。
呂揮もまた澪の服に手をかけ、はだけたその胸に露になった自らの肌を寄せながら絡まる澪の舌を受け入れていた。
「あ…ふぁ…んっ…澪っ…」
長い口付けが終わり少しだけ唇を離して間近にある呂揮の顔を見つめながら澪は
やさしく頬を撫で、ねえ知ってる?と呂揮に問う。
「ここの部屋を取るの中々苦労するらしいよ」
「…?…どうしてですか?」
「ここで初夜を迎えた花嫁は幸せになれるって噂のせいでね」
「…!!!」
「なんとからこに頼んでこの部屋をおさえてもらったんだ。感謝しないとね」
呂揮はそこで桜子の『ご褒美』の真の意味を理解した。
幸せになれる『噂』のあるこの部屋で、澪と今まで逢えなかったさみしさを埋めろという意味だったのだと。
しかしその噂の対象はあくまで『花嫁』だ。自分は男なのに花嫁だなんてという気持ちと、
恋人ではなく花嫁という言葉が澪とより親密になったような気がして嬉しいという
気持ちが入り混じり、呂揮の顔はみるみる紅くなった。
「あのっ…俺花嫁なんかじゃ…」
「そうか、じゃあ今から呂揮は俺の花嫁っていうことで。ほーら、花嫁さんの完成」
澪がベッドに散っている紅い花を1輪手に取り呂揮の耳にさしてにっこり笑うが
呂揮の方は未だ恥ずかしそうに頬を紅く染めている。
「これで花嫁とか滅茶苦茶理論じゃないですか…」
「滅茶苦茶でも構わないよ――――さみしい想いをさせた分呂揮をとびきり幸せにしてあげる」
「あ…あぁッ…」
ずっと逢いたかった人、愛して焦がれてたまらない人。
その人が言う。『とびきり幸せにしてあげる』と。
今でさえ幸せでたまらないのに、逢いにきてくれた事がこんなに嬉しいのにこれ以上どう幸せになるというのだろう。
それを思うといっそ怖くなって呂揮は無意識に澪から離れ後ろに退き、
その際手に当たったものを反射的に握り強く引っ張っていた。
ぷつん、と小さな音が天井でしてそれから呂揮の身体にはらりと落ちてきたのは天蓋につるしてあった布の一部。
澪の手が伸び呂揮の身体を素早く引き寄せ、落ちてきた布をまとわせていく。
「つかまえた」
「あっ…澪…っ…」
ごく薄い素材のその布を緩く巻きつけた呂揮の肌はうっすらと透けており、澪はその薄布を呂揮の雄辺りにも垂らしていく。
滑らかな肌触りの布が雄にしゅるしゅると擦れると喘ぎながら呂揮は小さく震えた。
やはり布で覆っても呂揮の雄は透けて見え、裸でいるよりも気恥ずかしくなってしまう。
「おねが…布…はずしてっ…」
「どうして?紅い花に薄布1枚…すごくそそる花嫁衣裳だよ」
「やぁ…み…澪………あァンッッ!」
布ごしから透ける乳首を口に含まれ思わず澪の頭にすがりつく。
「あァッ…あ…ぁ…」
ちゅ、ちゅ。と唇で吸ったり舌で転がす澪を見下ろしながら呂揮は指に絡んだ澪の伽羅色の髪を指で梳き抗うのをやめる。
花嫁衣裳だと行ってまとわされた薄布は恥ずかしかったが、その理由で
澪――やっと逢えた愛しい人の腕を拒むのは余りにも馬鹿げている。
一番何よりも欲しかったものなのに。
「澪…みお…みぉ…」
何度も名を呼びながら自らの胸を飾りを舌で悪戯する澪の髪の毛にキスをしていると顔を上げ、
目を潤ませている呂揮に唇を寄せて口付ける。
「ん…んぅ…ん…」
両腕で首にすがり口付けを受けている呂揮の乳首を指先で軽く引っ掻きながら呂揮の身体をゆったりと愛撫していった。
首、肩、腕、胸。優しく触れる澪の指をキスと共に受け入れる。
「ふぁ…んぁ…ふ…ぅん…」
決して強引ではないどこまでも優しい動きではあったが、それは確実に呂揮の快楽を煽っていた。
「ふぁ…ん…あんっっ」
「濡れてるね、ここ」
呂揮の雄に触れ、先走りを溢れさせてしまったであろう先端部分を指先でくりくりと弄った後
手で包み込みゆっくり扱いていくと、先端だけだった湿り気は徐々に増えていく。
「あ…ぁおねが…もぉ布越しじゃっ…」
「布越しじゃ嫌?でももうイきそうになってるね」
「…!…お願いお願い直接触ってぇっ!」
直接触られていないのに達しそうになっている事を見透かされ、それを隠すように哀願して叫ぶが澪の指は止まらない。
「布越しでイきなさい。うんと可愛いところを見せて?」
「ふぁ…ぁ…イ…くぅ…イクぅッあぁぁイっちゃうぅぅッッ!」
強めに扱かれ思わず澪の首にしがみついた瞬間雄の先端が澪の身体に擦れ、
自らで追い上げる形で呂揮は達してしまっていた。
放った精はそれを覆う布に阻まれ股間付近を濡らし、それを見た呂揮はかぁっと頬を染めた。
「あ…汚しちゃ…あ…ンっ」
「そうだね。さっきよりもすごくそそる」
「んぁ…ふぁぁんっっ」
布の合間から指を割り込ませ澪が秘部を撫で始め、やがてその1本がつぷりと中に入っていった。
「んっんっあッあっ」
呂揮の吐き出した精を丹念に塗りこみながら左右に動かして広げるように動かし、
十分に解した後で指を増やされる。徐々に強くなる圧迫感に満たされるのはほんの僅かでまたすぐに物足りなくなってしまう。
欲しい。もっと欲しい。もっともっと。
今まで逢えなかった空白を埋めようとでもしてるかのように貪欲に呂揮の身体も心も澪を求めていた。
「あンッッ!」
突然指を引き抜かれ短い悲鳴を上げた呂揮は澪の身体を押し倒し、腰を上げて
既に猛っていた澪の雄に手を添え秘部が当たるようにする。
「あッ…みお…澪ぉ…」
添えていた手を扱くように動かしながら呂揮の秘部に先端をぬるぬると擦り付けると浮いた腰が淫らに揺れる。
「可愛い可愛い花嫁さん、俺に全てを捧げてくれるね?」
「はい…澪…貴方に全部っ…」
少しの迷いも無く答えた呂揮に澪は微笑む。
「いい子。ゆっくり腰を落としておいで」
「はぁ…あ…んッ…」
言われたとおりに身体を沈めていくと同時に呂揮の秘部へ澪の雄は徐々に飲み込まれていく。
根元まで飲み込み身体のナカを澪のもので満たされた幸福感に酔いしれ、さらに溺れるために身体を揺らし始めた。
「んっんっあッんッあッふ…ぁんッ」
呂揮が上下に動く度にギシギシとベッドが軋む。
「いい眺めだね。呂揮の可愛いところも恥ずかしいところも全部見える…ほら、もっと見せてご覧?」
「んぁっあッふぁんっあぁんッ」
顔を朱に染めながらも腰の動きはさらに激しくなっていく。
動く度に雄の先端が身体に纏っていた布に擦れ、それに澪の手が巻きつき扱くことで呂揮は一気に追い上げられていった。
「あ…ふぁ…ん…あァァァァッ!!!」
快楽の攻めはそれだけでは終わらず、呂揮が腰を下におろした動きに合わせて澪が突き上げると
自らの体重も相まって呂揮の最奥にある気持ちのいい場所に強く当たり呂揮の悲鳴が一際高くなる。
いつも抱かれる時のように僅かに理性が残っていたなら呂揮は腰を逃がしていたかもしれない。
でも今の呂揮はこの快楽から逃げるなど考えられなかった、その気持ちのいい場所に
当たるようにさらに大胆に腰を振りたくる。
目の前の愛しい男の全てが欲しくて欲しくてたまらなかった。
「あァっいぃっソコぉっいっぱい当たって気持ちいぃよぉッ」
「そう…じゃあもっともっと強くそこに当たるように激しく動きなさい。今よりずっと気持ちよくなるから」
「は…はぃッ…あッ…ふぁッんッあぁっあぁぁぁぁぁッッッ!!!」
言われた通りに腰を動かすと湧き上がる激しい悦。呂揮はもう完全にそれに身を任せきってしまっていた。
「気持ちいぃよぉっ澪ぉッソコ気持ちいぃッあァッイクッイっちゃうぅぅッ!!」
「いいよイきなさい。ほら…」
「ふぁ…ぁ…あぁぁぁッ!!!!」
精を吐き出すと、それを覆う薄布がそれをまた受け止め呂揮の雄にぴったりと張り付いていく。
澪の雄で達した事と、自らの身体で澪を悦ばせた証が身体の中に注ぎ込まれている至福の時に呂揮は酔いしれていた。
「あ…アァ…ぁ…み…ぉ…」
澪の手が余韻のまださめない呂揮の腰を掴み入っている雄を引き抜こうと
してきたので、それを遮るように澪にすがりつき首を振る。
「………!…やぁ…抜かないで抜かないでッ!お願いまだ抜かないでぇぇッ!」
ずっと逢えなかった分、さみしい思いを少しでも長く埋めていたくて片時も離れていたくなくて。
子供のように駄々を捏ねている呂揮を微笑ましげに眺め、澪はその髪の毛に口付けを落としてあやす。
「中に出したのを掻き出しなさい。今日はこれくらいで終わらせるつもりなんてないから一度全部出さないとね?」
「ぅ…は…はぃ…」
終わらせないという言葉で漸く安心したのか上半身を澪の胸に預けたまま腰を
上げ体内を満たしていた雄を引き抜く。それから指を差し入れ体内に放たれたものを掻き出しはじめた。
雄でたっぷりと突き上げられた呂揮の秘部は3本の指を簡単に呑み込み動かすたびにごぷりとあふれ出ていく。
「あッあぁっ出てくるっ…いっぱい…」
見なくても分かるほど澪の精にそまった指に、こんなに沢山自分のナカに注ぎ込まれて
いたのかと考えると引いたはずの興奮と熱がすぐに戻りまた満たして欲しくなってくる。
「どう、全部終わった?」
「でき…ました…」
「指を抜きなさい。上手に出来たか確かめてあげる」
「…はぃ…あッあぁぁぁんっ!」
愛する人の囁きを聞くだけでじんと熱くなる身体。頬にキスされそこの意識がいっている間に
澪の指は呂揮の秘部の根元まで突き入れられていた。
「あぁッあんッふぁっあぁンッ」
『確かめる』という目的とは明らかに違う動きで秘部をぐちゃぐちゃとかき回す澪の指が気持ちよくて腰を左右に振ってしまう。
「ちゃんとできてたね。いい子」
「ん…んぅ…」
秘部から指を引き抜きご褒美と言って唇にキスを施されるが、少しでも深く澪と
繋がっていたくて自ら舌を絡ませて達した雄を澪の雄に擦り付けていた。
「ん…澪…ほしぃ…もっと…もっとぉ…俺のアソコ…さっきみたいに激しくっ…」
くちゃくちゃ音が鳴るくらい腰を前後に揺らして硬さを取り戻していた澪の雄に
擦り付ける呂揮の雄もまた立ち上がり、その辺りを覆っている布は呂揮が
放った精と秘部からかきだされた澪の精とでぐっしょりと濡れている。
しこった乳首を澪の肌で転がしながら激しく求めてくる呂揮の唇を、澪はいっそ心地よさそうに受け止めていた。
「これはこれは、おねだり上手な花嫁さんだ」
「あ…ふ…あぁんっ……あッあッあぁッ」
身体を反転させて呂揮の身体を仰向けに押し倒し、濡れた精でぴっとりと秘部辺りに張り付いている布を捲り上げる。
外気に晒した秘部を掌で思わせぶりに撫でてくる澪の行為に焦れたのか呂揮は自らの両足を抱え大きく開かせた。
「おねが…我慢できない…もぉこれ以上焦らしちゃ…ッ…入れて…欲しいの…ココにはやく澪のを入れてぇぇっ!」
重荷になりたくない、負担になりたくないと言って素直に甘えてこようとしなかった
呂揮が今まで感情を押し殺しきた全てをさらけ出し欲しがっている。
そんな扇情的な姿に澪もまた煽られていた。
「いいよ…あげる。俺も呂揮が欲しい」
「み…ぉ…あッあぁッアァァァァーーーーーーッッ!!!」
望んだモノが望んだ場所に当たり、心地よい圧迫感に呂揮は満たされ歓喜の悲鳴を上げる。
呂揮の秘部を貫き、イィと言っていた場所をくいっと雄の先端で突くと自らの足を開かせていた腕を解いて澪にすがりつく。
そしてその場所に押し付けるように腰を前後に揺らした。
「あぁっいぃっきもちいぃッ澪っ澪ぉぉッココっあぁッきもちいぃよぉっ」
夢中になって腰を振る呂揮の耳から落ちかけた紅い花をそっと直してやり、
澪は貫く雄に溺れあられもなく乱れる『花嫁』を愛でる。
「たくさん愛して、これ以上ないくらいに満たしてあげるよ」
「んっアッ…あぁぁッふぁんッ…みぉ…あ…ふ…んゥ…あぁッ奥…おく…ぅ…」
囁かれる声と共に揺さぶられる呂揮の身体。勢いよく引き抜かれては秘部を押し広げ
気持ちのいい場所を抉り、また引き抜かれ―――何度もそれを繰り返される。
「呂揮これじゃ動けないよ。さっきみたいに大きく足を開きなさい、俺が呂揮の深く奥まで入っていけるように」
あまりの激しさに開かせられた足を澪の腰に巻きつけるが澪はそれを強引に解いて左右に広げていく。
『深く奥まで』という澪の言葉で自分の中に愛する人と深く繋がれるのだと思うと密かに期待してしまう。
呂揮のそんな気持ちを知ってか知らずか澪は一度腰を引き、それからずん。と一度大きく突き上げた。
「あ…アァァァァーーーーーーーッッッ!!!」
無防備に全てを澪に曝け出した格好で気持ちのいい場所を狙って突き上げられ、自身の口から
上がる獣じみた嬌声を聞きながら呂揮は薄布の上に精を散らした。
「ちょっと動いただけでこんなにたくさん出して。なんて淫らで可愛らしい花嫁さんだろうね」
「うぅっあっふあぁんっ」
精まみれになりしっとりと冷くなった布と澪の温かい手の感触に包まれ扱かれながら
秘部を雄で擦られれば、達したばかりの呂揮の雄はすぐに立ち上がり雫を垂らしはじめる。
「ほら、こんなになって」
「ん…んふ…ぁ…ん…」
澪が精に濡れた指を近づけるとためらいもせずにそれをちゅくちゅくとしゃぶり、指にまとわりついた精を舐め取っていく。
まるで澪の雄を悦ばせてあげる時のように淫靡な舌の動きで綺麗に舐め終わった
呂揮の額に澪はいいこ。と口付け抱きしめる。
「…!…あんっ澪っ澪ぉぉっふあぁぁっあんッあんッあぁんッあぁぁんッ」
愛しい人の腕に包み込まれ、身体の奥の奥までを満たされ鳴きながら呂揮は澪が言っていた『この部屋で初夜を迎えた花嫁は幸せになれるという』部屋の噂の事を思い出していた。
澪は強引にこじつけて花嫁だなどと言っていたが、呂揮は自分を花嫁だなんて
思っていないし、ましてやこれが澪との初めての夜でもない。
だから初夜を迎える花嫁でなくてもきっと構わないのだ。
澪に求められ余すところなく愛されて、今自分はこんなにも幸せなのだから。
* * *
外から差し込む日差しで目を開けた呂揮が真っ先に視界に入れたのは頭から伸びる腕と伽羅色の髪。
もぞもぞと小さく動いて寝返りをうつと、間近に見える腕枕をしていてくれた澪の寝顔。
しばらくじーっと様子を覗うがどうやらまだ目覚めてはいないらしい。
こうして一緒に眠る時は澪が先に起きている事が多い中、今もまだ眠っているという事は珍しい。
神器交渉が長引き疲れていたであろう所をこんな所にまで足を運ばせてしまった
事に申し訳ない気持ちが湧き上がるが、逢いに来てくれた事は素直に嬉しいと思う。
「…………」
同時、こんな風に無防備な寝姿を見れる事などめったにないので何かしてやりたくてうずうずしてくる悪戯心。
まずはキスから…と顔を近づけた呂揮はあと僅かの所で止め、それからむぎゅーっと澪の頬をつねった。
「いひゃいよ」
目を開けて抗議する澪をふう。と小さくため息をつきながら頬から指を離す。
「やっぱり狸寝入だったんですね」
「やれやれ、もっと寝たふりスキルを上げなきゃいけないな、これじゃあいろいろ悪戯してもらえやしない」
「そんなスキル上げなくていいですから普通に起きてくださいよ!」
「だって寝たフリした方が呂揮は大胆になって色々してくるだろう?まぁ…昨夜はそんな事しなくても大胆だったけど」
「………ッ……」
「大胆でいやらしくて…とっても可愛かったよ」
呂揮の唇を軽く啄ばみ、恥ずかしそうにしている顔を満足げに眺めた後澪は長い髪をかき上げ起き上がった。
「さて、起きたのなら一緒にお風呂入ろうか。ホテルの人が用意してくれたことだし…バラ風呂って言ってたかなさっき」
「用意って…………いつの事ですか?」
後半の澪の発言に、恥ずかしくて風呂は別々でと断ろうとしていた事も忘れて呂揮が尋ねる。
窓の外に見える大き目の浴槽に浮かぶバラと思われる赤やピンクの色彩は昨日の段階では無かった光景だったからだ。
呂揮の望みに似た予想を打ち砕くようにしれっとして澪がそれに答えた。
「ついさっき」
「ついさっきって…この部屋に通したんですかっ!?」
「通さないと準備してもらえないでしょう?さすが向こうもプロだね、ごく自然にこちらを
視界に入れずに手際も鮮やかだったよ。花嫁衣装代わりに使った天蓋の布も
さりげなく持っていってくれたし………あれ、急にお布団に入ってどうしたのかな呂揮」
宿の人間に気づかぬほど寝入っていた事、そして共寝の名残りを見られてしまった事。
色々といたたまれなくなって布団の中に潜りこんでしまった呂揮を澪が覗き込む。
「せ…せめて俺のこと起こしてくださいよっ!」
「あんなに気持ちよさそうに俺の腕枕にして寝てるんだもの。起こす方が野暮でしょう?
ほら、恥ずかしがってないで出ておいで」
布団の中から叫んでいる呂揮を軽々引きずり出すとその身体を抱き上げる。
「澪っ!!歩けますよ!」
「せっかくなんだもの花嫁プレイ続行で楽しもうよ」
「だから俺花嫁じゃないですってば!」
「でも、本当はまんざらでもなかったんでしょう?」
新しくベッドに散らしていったのであろう新しい紅い花をまた呂揮の頭にさして澪は笑う。
恥ずかしかった。でも気持ちよかった、この上なく満たされた。
そんな心を澪に完全に読まれている呂揮は何一つ否定できない。
「この際なんだからとことん楽しまなきゃ」
ね?と間近で言われ、若干照れくさそうにしながらも呂揮は澪の長い髪に指を絡めて返事の代わりにその首に抱きつく。
「さぁお連れしましょう。俺の可愛い可愛い花嫁さん」
すがりついた呂揮のこめかみにキスを施し、澪は用意されたバスルームの方へと向かっていった。