偽り明鏡
「攻城戦合同会議って確か明後日だろ?なんで今日、しかも俺とらこだけな訳?」
「今日は言ってみれば臨時会議だよ。ちょっと、いやかなりだな。やっかいな事が起こってね」
澪の部屋にある戸棚の茶器を勝手に出してお茶の準備を始めている彩にそう返した澪の表情は心なしかすぐれない。
「なんだよ厄介なことって。澪がそう言うんだ、よっぽどの事なんだろ」
「彩も聞いたことはあるだろう。プロンテラで最近起きてる連続婦女暴行事件の話」
「あぁ知ってる、悪質な手口で銀髪の女の子ばっか狙ってるって言うやつだろ
……四季奈大丈夫なのか?あいつも銀髪だったよな」
作業が終わったのか椅子から離れ紅茶の入ったカップを彩から受け取って桜子の
座るソファーの向かい側に腰掛け澪は小さく頷いてみせる。
「今の所はね。銀って言ってもほとんど白髪に近いものだし平気と本人は言ってるけど最近はソロ狩りを
自粛させて露店も人が多い日中以外はさせないようにしてる」
「俺もそれがいいと思う。らこも莉良も銀髪じゃないけどだからって安心は出来ないからな、
夜出歩く時は俺らの誰か1人必ず一緒にさせてる。犯人まだ捕まってないっていうし」
桜子にもカップを渡して彩がその隣に落ち着くと、漸く本題という感じで少しの沈黙の後に澪は口を開いた。
「昨夜また1件起きたんだ。幸いそれは未遂で済んだらしいがその被害者が問題でね」
「問題ってことはどこかの貴族ご令嬢とかそういうやつ?」
「公にはなってないんだが…プロンテラ騎士団団長の愛娘なんだ」
「………マジで!?」
たった3文字の発言だったが彩のその顔は『なんて命知らずな』と語っている。
「なかなか解決しない矢先に出た被害者が被害者だったからね。騎士団長の愛娘の溺愛ぶりは騎士団長から
すれば下々の存在に当たる俺たちにも知られてるくらいだし。そういう事もあってか騎士団も今まで以上に
血眼になって調べて、そして漸く『現在砦を所持しているギルドのメンバーの1人』だという事までをつきとめた」
「要するに砦を所持してるギルドに所属する全員が容疑者って事か」
「騎士団から言わせればそういうことだ。メンバーの人数、名前、職業、所有している砦。全て調べられた上に
現在数人の騎士団の人間が常に砦前を見張って動向を探っている」
「あ、明亭の前にナイトが何人か立ってたけどそのせいだったんだ。で、犯人が捕まるまでそういう監視体制が続く。と」
「その辺はまだいい、一番問題は次回の攻城戦のことだ。その日までに犯人が名乗り出ない、見つからない場合は
攻城戦を中止・場合によっては所持している全ての砦を剥奪するという事を言ってきている」
『砦の剥奪』と聞いて彩と桜子の表情が変わる。それから一呼吸置いてから重そうな口を開いた。
「この申出は今日正式に受理された」
「…!!」
静寂の中その場の空気がずしりと重くなる。
3人にとって大好きでとても大切な人―――奏が取って守り続けてきた砦を最悪な形で奪われてしまうかもしれない。
2人から澪は少しだけ目を伏せることで逸らした。
「すぐにでも犯人を捜したい所だけどさっき言った通り見張りがついてて下手に動けない状態だ」
テーブルの上の紅茶をじっと見つめ黙って聞いていた彩がなぁ。と言って顔を上げる。
「澪、同盟ってどうなんだ?こっちのホームは騎士団の人間とかは別に
張り込んでる気配とかは無かった気がするけどやっぱ容疑者枠に入るのか?」
「犯人がいるのはあくまで砦を獲得しているギルドに所属する人間だ、同盟は完全に除外されている」
「なーんだそういうことかぁ、ならっ」
ばしっと胸の前で掌に拳を打って挑戦的な表情で彩が笑う。
「任せとけよ澪、俺達で必ず犯人をとっつかまえてやる。明亭をこんな形で失いたくなんてないもんな!」
こんこん。
「どうぞ」
静かにドアをノックする音が聞こえて澪の返事にドアが開き紫罹が顔を出した。
「失礼します。皆様ご機嫌麗しゅう」
しずしずと部屋の中に入り3人に対して恭しくお辞儀をして彩の前で跪く。
「彩様、攻城戦時のガーディアン殿と彩様との立ち位置を確認して頂きたいのでエンペリウムルームにお越し願えないでしょうか」
「紫罹…」
複雑そうな表情で見下ろす彩に紫罹は微笑む。
「砦存続の危機は覗っております。しかし砦を守る一兵として私はその準備に一切手抜きをしたくはないのです」
そこで彩が漸く笑顔でそれを返した。
「心配すんな紫罹、俺達で必ず犯人を捕まえる。次の攻城戦は絶対通常通りに行わせてやるからな!
………って訳でらこ、ちょっと行って来るから待っててくれるか?」
「うん、わかった」
ぱたん。
「で、紫罹くんを使ってまで彩をここから追い出した理由は?」
2人の足音が遠ざかった所で口を開いた桜子に彩の淹れた紅茶を口に含んだまま澪が目を細めて笑ってみせる。
「察しがいいね」
「分かるよ。お互い腐り果てるくらいの長い付き合いになるんだし」
「らこなら話しやすいと思って。さっきの話なんだけど実はまだ続きがあるんだ」
そう言って澪はソファーの隣に置いてあった包みを桜子の前に差し出した。
* * *
「みんなー、ちょっといいか?」
夕食の後、彩は居間で思い思いに寛いでいたメンバーを台所のテーブルに集め、澪と話した内容を簡潔に説明した。
もしかしたら被害者になるかもしれないメンバーが側に居ることや、明亭の剥奪の恐れもあると
いう事から話を聞いているメンバーの表情も自然と真剣なものになっている。
「ってことで。ぶっちゃけ次の攻城戦まであんまり時間もないけど犯人捕まえるのに皆に協力して欲しいんだ」
「俺に出来る事があるなら勿論協力します。ただ…犯人の情報が砦を所持するギルドのメンバーの1人。
ある程度絞れてはいますけど他の情報はないんでしょうか」
「えーと澪の話だと確か…」
呂揮の問いに彩が答える前に桜子が手を上げてそれを制する。
「その前にちょっといいかな」
「ん?何かいい案あるのからこ」
「これは澪から聞いた極秘情報なんだけど。犯人っていうのは告白して振られた腹いせに
その告白した女の子に似た外見の娘を乱暴していたらしいの」
「え、そんなこと澪言ってたか?」
「彩が席外してる間に聞いた話だから。でね、その振った女の子っていうのが『銀髪でライトグリーンの瞳』のアコライトなんだって」
それを聞いたメンバー全員の視線が一斉に銀髪にライトグリーンの瞳を持つ琉風に集まった。
「……………えっと…あの、あれ?」
桜子の話を熱心に聞いていた琉風だったが急に会話が切れ、何時の間にか全員が自分を見ていた
事に気づいて不思議そうに首を左右に振ってメンバーそれぞれを見回した。
「琉風、ここは空気読もうよ」
「何を求められてんのか肌で感じられるようになんねーとなー?」
左からは呂揮が琉風の左肩を叩き、右側からは史乃の手が琉風の右肩をそれぞれ後ろからぽんぽんと叩く。
「え?え?」
他のメンバーは桜子が先まで語らずとも意図することが分かっている様子だが琉風だけが相変わらず理解していないようだ。
「要するにね」
桜子は胸に抱えていた澪から預かった包みをテーブルに置きそれを開く。
「ぷっ」
「うわぁ…」
「あぁ〜やっぱりそーだったぁ♪」
それを見た史乃は噴き出し、呂揮は顔をひきつらせ、莉良は面白い事に直面したかのように声を弾ませる。
包みを開いたそこには綺麗にたたまれた女物のアコライト服があった。
「要するに。琉風くんにこれを着て女の子のフリをしてもらって、捕まえやすいように犯人をおびき出すのを手伝って欲しいの」
「なんだとーッ!!!」
異議をにおわせる声を発したのはそれを言われた琉風ではなく彩だった。
「どういうことだそれぇ!全員で協力して犯人捜索に当たるんじゃないのか?そんなこと俺聞いてないぞ!!」
「これも彩のいない時に話したから。と言うわけで琉風くんお願いできるかな」
「何がというわけでだちょっと待てぇい!!女の子の格好とか流石に琉風が嫌がるだろこれ!」
「俺やります!!」
「………………………………え?」
「俺やります」
彩は琉風を見るが、繰り返されたその言葉は聞き間違いなどではなかった。
「俺が女の格好すれば犯人をおびきだして、上手くいけば捕まえる事が出来るかもしれないんですよね。
これ以上女の子が傷つくのも今まで皆が守ってきた砦を奪われないためにも…俺でいいならやります!」
ほんの少しの沈黙のあと、おぉぉぉ〜という歓声と共に拍手が沸き起こる。
「すげー即答だ、自己を捨て去った琉風の正義ってヤツを見たぜー…これぞ真の神罰の代行者ってやつかー?」
「暗に女装スるって宣言しただけの話でもアリ・じゃね?」
俺ならぜってー断るわーと続けた史乃に対し、煙草を咥えたまま言う理は客観的かつ残酷なまでに現実的だった。
「こらリィ!琉風の必死の決断を女装の部分だけ抜粋して台無しにするなぁ!
…ってかそれよりも!!琉風にそんなことさせて大丈夫なのか?」
女装云々よりも以前強姦された経験のある琉風の過去をさして話したことを桜子はきちんと
汲み取ったらしい。小さく頷いてから桜子はまっすぐに彩を見た。
「大丈夫だよ守るもの。琉風くんに怖い思いなんて1秒だって私達がさせない。そうでしょ彩」
「…あぁそうだ。絶対させない」
彩もまた桜子を見て安心感のあるはっきりとした口調で返し、それから琉風と向かい合うように立って両手を琉風の肩にかけた。
「琉風、万一犯人と接触する事があっても俺達が必ず守る。だから心配すんな」
「大丈夫です彩マス、俺彩マスも他のメンバーの皆も信じてますから」
肩にかけられた手に自分の手を重ねて琉風が笑って見せれば彩が突然うるっと瞳を潤ませる。
「……………うぅ〜ごめん〜ごめんな琉風〜!!婿入り前のお前に女の格好させるとか
そんなこっ恥ずかしい事させることになるなんて〜ッ!!」
泣き出しそうな口調で彩は琉風のことをそのまま抱きしめた。
「婿っつか嫁だろー?そこは」
「嫁とか生々しい言い方はやめろぉ!!そもそも…」
史乃に鋭く突っ込みを入れさらに追撃しようとした彩をその前にねと桜子がずっぱり話を切る。
「その前にもう1つ決めないといけない事があるんだ。澪の提案なんだけど」
「今度はなんだよらこ」
「これもやっぱり極秘情報。犯人を振ったアコライトの女の子ってチェイサーの人とお付き合いしてた事が
1番大きな理由らしいんだ。だから琉風くん1人だけじゃなく、チェイサーの人と一緒に行動してもらうの。
騎士団が本格的に動き出した今犯人も慎重になってる筈だから、これ見よがしにチェイサーの人と
くっついて歩いてたら食いつきがよくなるんじゃないかって」
全員の視線が今度は一斉に理に集まった。
「お付き合いしてたと言えども犯人からすれば大好きな人を取り上げた悪者みたいなものだしね。
外見や雰囲気から与えられる印象って重要だと思うの」
「そんなら尚更じゃねー?っつかリィ以上の適役なんて絶対いねーだろ」
理を見続けながらそう言う桜子に同意するかのように史乃が何度も頷いた。
「すみません、同職ですけどリィさんの方がいいよなって思っちゃいました…」
「っていうかコトまんま悪漢じゃーん♪」
何処か申し訳なさそうに言う呂揮に対して莉良はきっぱり断言する。
「ちょっお前らぁ!そろいも揃って…!!」
「了解・マスター」
彩の大声の後に吸っていた煙草の煙を吐いて理が低いながらもよく通る声で答えた。
「彩マスらには負けっけどそれなり今までカラダ張って守ってきた砦に対する思いは
イロイロあるからな・これでケリがつくならヨロコンデ悪漢に?」
「うぅ〜…ごめん〜ごめんリィ〜!!お前にこんな悪漢役させるなんて〜!!」
理にも抱きついてやはり彩は泣きそうな声を出す。
しかしそんな彩を見る誰もが『いや、悪漢はあってる』
声にこそ出さないがそう思っていた。
「それじゃあ決まった所で早速準備しないとね。琉風くん」
「はい?」
桜子がテーブルに広げていた包みを琉風に手渡す。
「これ…アコライトの服に着替える前にシャワー浴びてきて。女性エリアの方使ってね」
「女性エリアじゃないとだめですか?」
「うん。シャンプーとボディソープ、私の使って欲しいから。終わったら着替えてすぐ私の部屋に来て」
「なんでらこの部屋に行く必要があるんだよ」
「彩、まさか琉風くんにアコライトの服を着せただけで女装終了とか思ってないよね」
「え、そうじゃないのか?」
「そんなんじゃすぐにばれちゃうよ、髪型もメイクもきちんとしないと。琉風くん女性エリアのバスルームの場所分かる?」
「えっと、どこでしたっけ?」
「こっち、ついてきて」
アコライトの服を抱え琉風は桜子のあとをついていった。
* * *
初めて入った桜子の部屋で琉風はやや緊張気味にキルトのカバーが敷かれたベッドの上に目を閉じて正座していた。
それに向かい合うように腰掛け、桜子が琉風の頬にスポンジでファンデーションを薄く延ばしている。
「らこさん、あたしのも持ってきたけどどっちがいい?琉風の瞳の色と合わせてシルバー系とかいいかなって思ったんだけど」
「そうだね、じゃあそっちの貸してくれる?」
部屋に入ってきた莉良が左手に持っているシャドウを指差した。
「はぁ〜い。らこさんのファンデってよく伸びるねぇ」
「厚塗りにならないよう伸ばす作戦には最適だね。睫毛はどうしよう、琉風くん結構長いしビューラーだけにしておこうかな」
「あたし透明のマスカラ持ってるよぉ、使う?」
「あ、透明ならつけようかな、あんまりきつくならないように少しだけ…琉風くんちょっと目開けてくれる?目線気持ち上でね」
「あ、はいっ!」
素直に開いた瞳で天井を見て目にゴミでも入ったような異物感を、皮膚呼吸が出来て
いないような既に肌に塗られたファンデーションの息苦しさと共に耐える。
「口紅も薄めに…琉風くん『んー』って言ってみて」
「んー」
「そうそう。口紅塗るからそのままでいてね」
「あっこのグロス琉風に合いそう!らこさんその口紅にしちゃうの?」
ベッドの上に広げられた道具をしげしげ見ていた莉良が琉風からすれば短い筒状の物を
手に取り桜子に見せると、んー。と少しだけ迷った様子を見せた。
「そう思って出したんだけど。べったり着いたらリィくん困るかなって思って結局こっちにしちゃった」
「そっかぁ、そうだよねえ♪」
何故理にべったりつくのか。そもそもグロスというものが何なのかも分からず。琉風はただじっとしているしかなかった。
「琉風くんこれ、唇で食んで」
「はひ…ほーひふはぁ?」
「はい、そーですよ…うん。離してもいいよ」
口紅のついたティッシュを手で丸めながら桜子は少し身を後ろに引いて琉風の姿を下から上へと確認するように視線を移す。
「こんな感じでどうだろう」
「わぁ〜…すごいすごいらこさん!琉風すっごい可愛くなったぁ!」
「あはは…」
いっそのこと指をさして笑い飛ばして欲しかったと琉風は可愛いと言った莉良に対し複雑な笑みを浮かべた。
「頭装備は私のだけど使って。琉風くんが普段つけてる装備でも大丈夫だと
思うんだけど女の子っぽく見せるならリボンの方がいいと思って」
頭にかわいいリボンを巻いた桜子の指がそのまま軽く琉風の銀髪を整える。
「はい、お借りしますらこさん」
「服よ〜し、髪よ〜し、メイクよ〜し、頭装備よ〜し。んで、最後の仕上げっ♪」
やけに嬉しそうに莉良が後ろに何かを持って琉風の目の前に立つ。
「そういえば琉風くんのメイク中に買い物行ってたみたいだけど何買ってきたの莉良くん」
「えへへ〜コレ♪」
「!!!」
桜子に言われ満面の笑みを浮かべつつ差し出されたそれを見た琉風は目を見開き絶句する。
「琉風ぁこれを…………」
「やだやだっ絶対にやだーーーーーッッ!!!」
ばたん!!
桜子の部屋を出て逃げるように琉風は居間に向かった。
「琉風終わったの?………ってわぁっ!!」
前も見ずに走ってきたのか琉風が胸に体当たりをしてきたのを呂揮が両腕で受け止める。
「あっ呂揮ごめん…!」
「あ…琉風の髪」
呂揮が琉風の髪の毛に鼻を利かせる。
「ラベンダーの匂いがする。もしかしてらこさんが自分のシャンプーとボディソープ使ってって言ったのこれのためだったのか」
「あ、うん。そういえばそうかも…」
「もしかして準備終わった?どうなったの琉風、ちゃんと見せて……わぁ…」
琉風の顔を覗き込むと呂揮が感嘆の声を出す。
「うおー!すっげえ可愛くなったな琉風!通りすがりの人が見ても男だってわかんないぞ絶対!」
「これ相当レベル高いんじゃねーの?女ですって言ってもフツーに通じるレベルだぞこれー」
「女装とか化粧とか絶対笑われると思ったのに…俺どんな風になってるの」
彩や史乃までが笑うどころか本心から褒めている様子に琉風はすっかり困惑していた。
「気になるなら見てみる?」
後から来た桜子が手鏡を琉風に手渡してくる。
「…………………………………………………………………………………」
それを見た琉風は無言で手鏡から目を逸らした。
「現実から逃げちゃだめだよぉ琉風。あとそれからほらっ!」
「だからそれはやだってば莉良!」
莉良が背後から小さな紙袋を見せたのを見て呂揮から離れて素早くソファーの後ろに逃げた。
「逃げるなっ!!琉風のためにわざわざランジェリーショップ行ってまで買ってきたんだから」
「あ?まな板胸にブラジャーとかいらねえだろ。それとも偽チチでも作んのか?」
「ちがうよぉコト。ぺたんこなアコたんで行こうってことになったからそれはいいの。買ってきたのはこれ!」
莉良が紙袋から無造作に取り出したものを見て史乃は思わず失笑する。
「うっわー…紐パン、しかも黒ときたかー。こんなもん琉風にはかせるつもりだったのかー?」
「見えない所だって重要なんだよぉ?一見清楚でおっぱいぺっちゃんこのアコたんが黒の紐パン
とかってギャップがなんかえっちくていいなって思ったのに琉風やだって言って逃げちゃうんだもん」
莉良がぷくっとむくれて紐の部分を握りぶんぶん振り回して見せると、片手で
真っ赤になった顔を覆いながら持っているパンティーを指差して彩が叫ぶ。
「ちょっとまてそんなものぶんぶん振り回すなぁ!!通りすがりの人の目に止まるだろぉぉッ!!」
「ほらぁ彩マス怒ってんじゃん、だから早くはいてってば琉風!!」
隠れている琉風の元に駆け寄りソファーの上に飛び乗って目の前にパンティーを
突きつける莉良から今度は台所の方へと逃れ頑なにそれを拒む。
「絶対はかない!見た目がこれだけ変われば十分だろ!」
「ちぇーっせっかく買ったのに…」
飛び乗ったソファーの背に座って唇を尖らせながら莉良が両手でパンティーを伸ばしていると
そのソファーに座っていた理が手を莉良に向けて伸ばす。
「おい莉良・それかせ」
「ん?」
「せっかく買ったんだろ?」
「………うん、せっかく買ったのぉ♪」
何か企みの目を含んだ理に同じく、血が繋がっているせいかどこか似た笑みを漏らしてパンティーを手渡した。
「えっ…わぁッ!!」
それから理は台所のテーブルを影にして小さくなって隠れていた琉風の腰に腕を回して肩に軽々と担ぎ上げる。
「えっやだっ何だよ理離せってばっ!!」
肩の上で琉風は暴れるが、がっちりと押さえ込まれた上慣れない服を身につけているせいかろくに動く事もできない。
「彩マス・ちょい部屋借りっから。2階のコイツの部屋まで行くの面倒臭ぇ」
「いいけど…リィ何すんだ?」
「ん?莉良の思いに報いるコト」
理の手にしたパンティーと『莉良の思いに報いるコト』。
自分がこれから何をされるのかが最近自分は鈍いのだとようやく自覚しはじめてきた段階である
琉風ですら容易に想像がつき、さらに理の肩の上で暴れるが相変わらず押さえ込まれた身体は自由になる気配すらない。
「公開生着替えよかイィだろ」
「やだってば…やだやだやだーーーーーッッ!!」
「おいリィ…」
ぱたん。
彩が何か言う前に居間から一番近い彩の部屋に嫌がる琉風は理によってそのまま連れ込まれていった。
琉風と共に理が彩の部屋から出てきたのはそれから3分後。
部屋に入る時に持っていた黒のパンティーが部屋を出てきた理の手には無かったこと、そして涙目になって
今まではいていたであろう下着を両手で握り肩を震わせている琉風に反して口の端を上げニヤリと笑っている理。
メンバー全員は察した。
「はかせたのか…あれをっ…!」
「ありゃーはかせられたなー」
「うん、はかせられたね」
「はかせたんですね…」
「どれぇ?」
彩、史乃、桜子、そして呂揮が口々に言った事が本当か否か確かめるべく莉良が
素早く琉風の後ろに回りべろっと琉風のアコライトのスカートをめくり上げる。
「わーッッ!!」
慌てて琉風はスカートをもとに戻したが、その場にいたメンバーには琉風の下肢を心もとない面積で
覆い横紐をリボン結びで繋げた黒のパンティーがしっかりと目に焼きついていた。
「こら莉良ぁッ!女の子がスカート捲りなんてするんじゃなーいっッ!!」
「あーッ本当だちゃんとはいてるはいてるー!!」
彩が慌てた様子で後ろから羽交い絞めするが時は既に遅く、莉良は宙吊状態でぱたぱたとつま先を揺らして喜んでいる。
「うっ…うぅッ…」
女の格好をさせられ化粧をさせられたまではまだ耐えられたものの、女物の下着まで強引に
身につけさせられた上メンバー全員にそれを見られてしまい琉風は今にも泣きそうな顔になっている。
「琉風くん泣いちゃだめメイクが落ちちゃうよ。あ、少し髪の毛も乱れちゃったね。直さないと」
「うっわー、らこ容赦ねーな」
取り出したハンカチで溢れそうになった琉風の涙を吸い取り、手鏡と一緒に持ってきたで
あろうブラシを取り出した桜子にかけた史乃の口調はむしろ感心に近い。
「必要悪だよ、時として心を悪にしなければならない時だってあると思うの」
「嘘だ嘘だ絶対嘘だっ!お前がその慈愛に満ちたような笑顔を見せる時って大抵何かろくでもないこと考えてる時だろ!」
彩が羽交い絞めにしていた莉良を降ろし、ブラシで乱れた琉風の銀髪を梳かしている桜子に詰め寄った。
「彩の気の迷いだと思うよ」
「何が気の迷いだあからさまに私今嘘ついてますみたいに顔逸らしながら言うなぁぁぁぁぁッ!!!!」
「おらー彩マス作戦決行だろー?早く出ねーと人目のつきやすい今くらいの時間じゃねーと釣れるもんも釣れなくなるぞー?」
「お…おう」
史乃に嗜められ自分自身を落ち着かせるためか大きく深呼吸してから声高々に号令をかける。
「んじゃそれぞれ準備開始!15分後にホーム出発、作戦決行!!」
了解マスター。とそれぞれが準備のため居間から散っていく中、後はその姿で街中を歩くだけの琉風はその場に残っていた。
「琉風…お前本当に大丈夫か?」
心配そうに頭を撫でて来る彩に琉風は大きく一つ頷く。
「…もう平気です。俺達で絶対犯人捕まえましょうね!」
「ありがとな琉風。お前のそういう優しいとこ、大好きだぞ」
拳を作って意気込んで見せる琉風を彩はぎゅっと一度強く抱きしめた。
「……………」
史乃がふと立ち止まって居間で彩が琉風を抱きしめている光景を目を細めて一瞥し、それから自分の部屋へと向かっていった。
「恋人じゃねー時はどうとも思わなかったんだけどなー…?」
* * *
「おら・もっとくっついて歩け。ちゃんとオレと一緒の所犯人に見せつけねえといつまで経っても捕まらねえぞ?」
「うん…分かった…!」
アコライトの格好をした琉風がおぼつかない足取りで理の腕にきゅっとしがみついて歩いているのは夕暮れ時のプロンテラの町中。
史乃は桜子と共に露店を物色するフリをして2人の後を離れた場所からついていき、彩と莉良が別方角から同様にそれを追う。
呂揮のみ完全単独行動でハエの羽やスキルを利用して広範囲を偵察し、理と琉風
相手に不審な行動を起こす者がいないかどうかを覗っていた。
『腕組むのもいいけど恋人つなぎはぁ?指絡ませるやつ!』
露店から買ったジャムパンケーキを彩と分け、その半分を口にくわえた莉良がこんなの!と
自分の両手を組んで離れた場所で歩いている史乃と桜子に見せる。
『それいいね、リィくんお願い』
桜子がギルドチャットから理に指示を送ると琉風に何かを囁きながら腕から一旦離させ琉風の手に自分の指を絡ませた。
『うっわー…恋人ツナギしようと何しよーとリィがアコちゃん誑かしてる悪漢にしか見えねーわ。ここまで来るともう才能じゃねーのあれ』
露店で偶然見つけた格安のエルニウムをちゃっかり購入してカートにしまい、桜子の言うとおりに
『恋人つなぎ』をしている理と琉風に向かって史乃が苦笑する。
『実際の話もそうなんじゃないのぉ?お付き合いしてるっていうチェイサーがアコたんを騙してるとか!』
『莉良くん、残念ながらそれはないんだ。澪の情報によるとあくまで犯人の一方的な片思いで
女の子の方はチェイサーの人と結婚前提で真剣にお付き合いしてるって話だし』
『らこさんの言う事が本当なら今回の事件は完全に犯人の八つ当たり…ですね』
呂揮はそれを発言する間もハエの羽を使って着地した場所から人ごみに溶け込み、
いつ現れるかも分からない犯人を捜し続けている。
『うん、実は振られた人物が誰かっていう明確な情報も攻城戦ギルドの間で流れてる
らしいけど現段階ではその人が犯人だっていう証拠はないんだよね』
桜子が露店に並んでいた頭装備を試着しながらも理と琉風のいる場所を、そして周囲の様子を覗っている。
『ヘタに騎士団にタレこんで万が一間違ってたらって事考えると互いにデカい行動に出られねーんだろ。
攻城戦ギルド同士のいざこざはアト引くからなー。先週までチュンリム02の天壇もそれでかなり大変そうだったしー』
値切り交渉をしつつ史乃はその事を思い出しているのか哀れみを含んだ顔をしていた。
ギルドチャットでそんな会話が展開されていてもまとわりつくスカートに邪魔くささを感じつつも
ちょこちょこと小股で必死に歩いている琉風の耳にはろくに入っていなかった。
修道院で修行中の時、アコライトの少女がこの姿で鍛錬していた姿を見かけたこともあったが、
よくこの格好で立ち回れたものだと琉風は尊敬の念さえ抱いていた。
「うわっ…!」
着慣れない事が災いしてかついに躓き転びそうになる。
それを支え抱きしめたのは側にいた理だった。
その抱え方があまりにも優しくて逆に琉風が戸惑った様子で離れようとするがそれをやんわりと抱きしめることで止める。
「離れねえでくっつけ」
「う…うん…」
耳元で囁く理の胸に手を当て、ぎこちないながらも素直に琉風は寄り添った。
『彩マス。見つけました』
呂揮の一言でギルドチャットは水を打ったように静まり返ったが全てのメンバーに
緊張が走っていくのがメンバーの姿を確認していない琉風にも分かる。
『皆ヘタに回り見るなよ、呂揮どんな奴?仲間とかいそうか?』
『男のクリエイター1人、ただがむしゃらに2人のあとを追ってる感じで
連絡を取っている素振りは見られません。恐らく単独行動だと思います』
『らこ、振られたっていう相手の職業聞いてるか』
『クリエイターだって澪は言ってた』
『おーこりゃ釣れたかー?』
史乃がカートの中にしまっていた武器を取り出しやすい場所に移しながら言う。
『分かった…………リィ、えっと…その…えっとな…?』
『琉風連れて連れ込み宿へGOでしょぉ?彩マス』
『……!!!』
どもる彩をたきつけ言った莉良に、明らかに動揺した表情を浮かべた琉風の顔を隠すように理が胸に引き寄せ抱きしめる。
「一々動揺してんじゃねえ馬鹿」
「…ごめん…!」
せっかく現れた犯人かもしれない人間をおかしな態度を見せて逃がしてしまう訳にはいかない。
理の胸に顔を摺り寄せたまま一呼吸し、それからまたぴたりとくっついて歩き始める。
『待って、連れ込み宿却下』
『そうだよならこ!連れ込み宿はやっぱり…!』
次に続けた桜子の言葉はほっとしかけた彩を激しく動揺させる材料に過ぎなかった。
『連れ込み宿じゃなくて小奇麗で宿泊料が並より上の宿の方が
いいと思う、中に入ったら普通にすることはしても構わないから』
『ちょっらこおまええぇええ普通にスることしてもとか言うなぁ!!』
怒鳴る彩に対しその側にいた莉良は納得したようにぽんと自らの手を叩く。
『そっかわかった!安い連れ込み宿とかじゃなくてお高めの宿に連れてってお前は特別なんだぜ〜
きゃ〜ん嬉し〜だぁりん大好き〜っ♪………って展開をここぞとばかりに犯人に見せ付けまくるんだね!!』
『とりあえず!!リィ達は出来るだけ人通りの多い宿選んで入ってくれ。2人で部屋に入ったら…その後は事前に打ち合わせした通りな』
彩の指示通り理と琉風は1件の宿に入り、他のメンバーがその2人を追う事で『作戦』は行なわれるはずだった。
『それじゃあとどめといこうか』
『何のとどめだよらこ?』
『やっぱキスでしょ〜♪』
『なに言ってんだ莉良ぁああああぁぁッッ!!』
『ほらぁ彩マス動揺した態度見せちゃだめだってば犯人逃げちゃうよ!』
『動揺させるような事を言うからだろうがぁあああああッッ!!!』
ぽんぽんと莉良に肩を叩かれ表面上は平常を装うがギルドチャットでは動揺丸出しの叫びを発していた。
『挑発スんならとことんだろー、見せ付けるようになー?』
『だって…あのっ…』
史乃の有無を言わせない口調に琉風が返す言葉を捜している間に顔に
吐息がかかるのを感じて我に返ると、理の顔が間近に近づいていた。
「わっ…ことわッ…!!」
離れようとする琉風の腰を抱き寄せ琉風の顎に指を絡め上向かせる理は離す気などさらさらないらしい。
「相手を挑発サせてんだ・感情任せに動いてコッチの罠にハメるためにな…じっとシてろ?」
「……わ…わかった………」
それを聞いて素直に目を閉じた琉風に小さく鼻で笑いつつも、琉風の頬を理の両手がそっと包み込んだ。
優しい触れ方に戸惑いながらも頬に触れる手の感触が気持ちよくて無意識のうちにすり付く。
「んッ…」
煙草の香りと共に理の唇が琉風の唇に触れ、琉風はそれを素直に受け入れていた。
頬に添えていた理の手が琉風の背中に回りこみそっと抱きしめる。
その間しばらくギルドチャットは沈黙していたが、色々耐え切れなかったのか彩はその沈黙を一番最初に破った。
『ちょっと待てぇぇええええ長すぎだっ長すぎだろお前ら!キスしてんの長すぎだろ
通りすがりの人が滅茶苦茶見てるだろぉおおおおおおおッッッ!!!!!』
『おーおー結構人通りすげーってのに堂々やるやるー…あれ絶対舌入れてんな。なー?彩マスもそう思わねー?』
『俺に話振ってくんな史乃ッ!!なおかつそれをギルチャで生生しく解説すんじゃねえええええぇぇぇええッッ!!』
「ん…んっ…ぅ…」
聞こえるギルドチャットも目を閉じていても分かる近くを通る人の視線。
こんな場所では嫌だと言って早く離れてしまいたいくらい恥ずかしい。
それでも押しのけようとした手を理の肩に触れ、琉風は理の唇を、咥内に
侵入してくる舌を受け入れてためらいがちにだが自らも絡ませていた。
琉風をそうさせるのは『犯人・捕まえるんだろ?』という他の誰からも聞こえない理からのwis。
「んむ…ん…ぅ…はぁッ…」
唇が離れ理の唇に移った口紅を琉風が人差し指で拭う。
桜子が言った理の唇に付くと言う意味を今になって漸く理解しながら。
その指を舐められうっすら笑みを浮かべる理から慌てた様子で指を引っ込めた。
「おら・行くぞ」
「…うん」
そっと肩を引き寄せてくる理にやはり戸惑いを感じながらもじろじろと見てくる周辺の視線を
避けて俯きながら走り去りたい気持ちを抑えて理と共にゆっくりと歩いてその場から離れていった。
* * *
こんこん。
琉風が通されたプロンテラにある宿の一室であるダブルベッドの上に座って側にある窓から見える
町の様子を眺めていると、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「どなたでしょうか?」
「おくつろぎ中の所すみません、少々お伺いしたい事があるのですが」
琉風がゆっくりとドアを開けるとそこに立っていたのは1人のクリエイターの男だった。
「チェイサーの方もこちらにご一緒に宿泊されていたと覗ったのですが…いらっしゃらないでしょうか?」
「買い物があるからとついさっき外出していきました。私の彼に何か御用でしたか?」
『私の彼』と言った琉風に対し、クリエイターは一瞬ではあったが誰にでも分かるくらいの怒りの表情を見せた。
「えぇ…数日前ホワイトスリムポーションのご注文を頂いていたんですがそれの製造が終わりまして。
たまたまここの宿を入って行くのを見かけたものですからお届けしようとうかがわせて頂きました」
「そうでしたか。もうすぐ戻ってくるはずですから宜しければ中へどうぞ」
理が四季奈の製造した回復剤以外のものを一切使わない事を
知っていたため相手が嘘をついていることが琉風にはすぐに分かった。
分かっていた上でそのまま部屋の中へと通す。
理と共に歩いていた後を怒りの形相で追いかけてきていたというクリエイターの男を。
「…売女が…」
「え?」
クリエイターの言った事が聞き取れずに琉風は後ろを振り返ると、先程一瞬だけ見せた
怒りの表情を露にしたクリエイターが琉風を睨みつけていた。
ばたん!!
『コールホムンクルス!!』
部屋のドアがクリエイターによって乱暴に閉められスキルで出てきたのは進化したバニルミスト。
そのどろどろとした身体を駆使してドアに張り付き入り口を塞いでしまう。
完全に閉じ込められ逃げ場のない密室で、じりじりと部屋の壁際に
追い詰められながらも琉風は気丈な態度でクリエイターの男を睨みつげた。
「こんなことしてどういうつもりですか?」
「自分の胸に聞け!よくも人を蔑み馬鹿にしてくれたな!!」
「私は貴方のことは知りません。誰かとお間違えではないでしょうか」
「だったら思い出させてやるまでだ…この売女め!!」
暴言を繰り返しクリエイターは部屋の隅まで逃げた琉風に掴みかかろうとした。
「ぐぇッ!!」
突然琉風の前に姿を現したチェイサー――理の姿に驚く間もなくクリエイターは腹部を蹴り飛ばされる。
自分が進んできた反動も重なった事もあって衝撃は強かったらしく苦しそうに呻いて後方に退き膝をついた。
「なっ…!?」
いくつもの人影を床に見たクリエイターが声を発した時はもう既に『全てが』手遅れだった。
『シャープシューティング!!』
『サプライズアタック!!』
『ボウリングバッシュ!!』
『カートターミネーション!!』
『ソニックブロー!!』
ぼぼぼぼぼんッ!!
スキルが幾重にも重なり小爆発でも起こしたような音がして、その全て直撃したクリエイターがどしゃりと床に倒れこんだ。
「琉風のオカマ声可愛かったねぇ♪」
「だっていつもの声でしゃべったら男だってばれちゃいそうな気がして…」
短剣を腰の鞘に収め、にやにや笑っている莉良にそう返して琉風は部屋の中央で倒れているクリエイターを囲むメンバーの輪に混ざる。
「ホーリーライトで来ると思ってたのになかなかやるなーらこ。挿してるカードってアレか?」
フリルドラカードを挿したマフラーを外し、桜子が持っている武器のスロットを史乃が覗き込む。
「うん。ホーリーライトだと詠唱時間があるからみんなと一緒に攻撃出来なくなると思って。
前に史乃くんに貸してもらったチェイン参考にして自作してみたの」
インジャスティスカードの挿さったルナカリゴをぽんぽんと手の平で叩いて足元のクリエイターを見下ろした。
「あ、マントの裏側にエンブレム付けてた。ギルド所属か」
弓を肩にかけ完全に伸びているクリエイターの側に跪き隠しでもしていたのかマントの
裏側のすぐには見えない場所につけられているエンブレムの上を彩の指が滑る。
その隣でじっとそのエンブレムを見ていた呂揮が何かを思い出したのかあっ。と声を出した。
「確かこれ、レーサーギルドのエンブレムです。明亭にも何度か攻めに来た事が
あったから覚えてます。確か今はヴァルキリーレルムのスケグル持ちですね」
「犯人は砦持ちのギルドメンバーで、そんでもってアコにフラれてたんだろー?アコの
カッコした琉風に売女呼ばわりして飛び掛っていったってことはー…」
史乃がそう言いながら彩を見ると大きく1つ頷いた。
「ビンゴ。だな」
彩へ異論を唱える者は誰一人いなかった。
* * *
「銀髪のアコを襲おうとしたってだけで一連の事件と関係あるかどうかの証拠が
ある訳じゃねーしぶっちゃけっと次の攻城戦やばくねーか?」
クリエイターはやってきた騎士団の人間によって連行されていき、彩が残った団員の
1人であろう騎士に事情を説明している背中を眺めながら史乃は小声で桜子に問う。
「それを吐かせるのが騎士団のお役目だよ。騎士団団長のご息女が被害者になってる事件だし時間の問題じゃないかな」
「あー、なるほどー。んじゃ攻城戦は通常通り、一件落着ってとこかー」
「…………そうだね」
答えた桜子の口調がいつもと違った事に史乃はすぐに気が付いた。
「やっぱ今回の事件はいろいろ思うとこがあるかー」
「被害に遭った彼女達はきっと言葉に言い表せないくらい哀しくて辛かったと思う。私に出来る事って言えば事件の被害に遭った
娘たちの側に優しさと深い愛情で包んでくれる人が現れてくれる事を祈るくらいだけど」
「ほーほーほー?優しさと深い愛情で包んでくれる人ねー」
「史乃くんが彩に対して、みたいにね」
「ったくそーくんのかよー…」
からかおうとしたつもりが自分に返され、史乃は照れ隠しにぽりぽりと頭を掻いた。
「よーし俺らも撤収するぞーポタだしてくれー!!」
「はいっホーム前出します!」
騎士団との聴取を終わらせた彩が片手を上げて叫んだので、余計な詮索をされないように
『暴漢に襲われそうになった恐怖で話もろくに出来なくなったアコライト』を演じ、理に抱きついていた琉風が
あらかじめ服のポケットに入れておいたブルージェムストーンを取り出そうとした所で呂揮にその手を止められる。
「琉風はリィさんと残りなよ」
「え、どうして?」
「そーそーここまで来たんだからきっちりヤって堪能しねーとなー。こんな経験めったに出来るもんじゃねーぞー?」
「うわっぷ…!」
史乃がぽふぽふと琉風の頭を軽く叩きそのまま理の胸に押し付けて行く。
「ちょっヤってとかどういうことだぁ!!」
「なにってせっくすでしょぉ?」
「こらぁ莉良っ!!女の子がせっくすとか破廉恥なこと平然と言うな!!通りすがりの人が…むぐーッ!!」
言いかけた彩の口を史乃が後ろから両手で塞いだ。
「はいはい彩マス、ホーム帰ろうなー。他にお泊りしてえっさほいさと励んでる人たちがいっかもしれないんだからしずかーに」
「むーっんーッんーッ!!」
桜子の出したワープポータルの中に暴れる彩の口を塞いだまま史乃が共に入り、その後に呂揮と莉良が軽快に飛び乗っていく。
「それじゃあ2人ともごゆっくり」
妙に優しげな微笑を零して桜子は最後にワープポータルの中へと消えていった。
「だってよ」
「ことわ…待っ…!」
言い終わらないうちに琉風の身体は理の片手によって腰を撫でられていた。
「待ってせめて服脱いでから…化粧もまだ落としてないしっ…!」
「史乃が『堪能』って言った意味わかってねえなお前」
「え…ここの部屋のことじゃ…」
「めったに体験できる事・じゃねえんだろ?」
琉風はやっとそこで『堪能』の意味が今の姿の事だと言う事に気づく。
「…あ…でも………あッ待って…!」
スカートを捲られそうになりそれを止めようとした拍子にベッドに倒される。
何度裸を見せてもそれすらまだ恥ずかしいというのに女の子の格好をさせられている今更に羞恥は増した。
「あ……んっんぅぅ…んッッ」
片足を持ち上げられ唇を塞がれ、その拍子に捲れたスカートを琉風の腹の部分まで
捲りながら上に着ている服の合わせ目を手早く緩める。
露になった胸をまさぐられ恥ずかしい場所だけを晒した今のその格好に、いっそ全部脱いだ方が
ましだとさえ思っていると下半身に急に鈍い刺激が走った。
「んぅんっ…あっあぁぁッッ」
途中から唇を離され喘ぐ琉風の足の間に忍び込む理の指。
パンティー越しからくりくりと秘部あたりをいじられ、雄の部分は唇で触れられ舐められ、
布を挟み直接触れてもらえないじれったさに思わず琉風は腰を突き出していた。
「あぁっあッあぁぁッひぁんっっ!」
雄全体を唇でたっぷり撫で回し食まれて辿り着いたのは敏感な先端。
理の舌でそこをしつこく撫でられる内に布地が湿り気を帯びてくる。先走りなのか理の唾液なのか分からなくなるくらいに。
「んッんッあぁッあ…ぁ…」
羞恥のせいか顔を赤らめながらも指と唇を受け入れている琉風に理は満足げに笑い、
自ら身につけさせたパンティーの紐を口に咥え引っ張り、その紐をずらしてゆっくりと小さい布を琉風から剥がしていく。
いつもならいっそ手際がいいと思うくらいさっさと脱がせていくのに今日は見せつけでもするかのように
ゆっくりと脱がせていかれる事が琉風にとって恥ずかしくてたまらない。
身につけているものが身につけているものだけに余計にそう思えた。
雄が半分ほど見えた所で紐を口から離し、もう片方は解かないままパンティーの間から指を差し入れ直接指が秘部に触れてきた。
「んくっんっあッあぁッ」
入り口を軽く指の腹で弄られながら覆っている黒い布地が徐々に取り払われると
布越しの愛撫で既に立ち上がっていた琉風の雄が完全に露になる。
「勃ってんな」
「それは理が舐めるからっ…あんッッ!!」
言い返している途中で突然それを咥え込まれ琉風が短い悲鳴を上げる。全部に舌を絡ませたあと口を離し、
舌先で布越しではなく直接雄の先端を舌でつついてみせる。
「舐めるっつったってココつついただけだろ」
「だってそこばっかり…あぁぁぁッッ」
足を開かされ震える雄に理の舌が上から下にかけて滑り、最後に辿り着いた秘部を舌でぴちゃぴちゃと舐める。
「ひっ…アァァァァァッッ!」
双丘に顔を埋め頭を細かく左右に動かして秘部を嘗め回す。
ぬるりと舌を内部に侵入させてはじゅばじゅばと音を立てて舐め啜られた。
「やぁぁッそんな所舐めないでッやだぁ吸っちゃあ…アァァァァくちっ…ヤァァァァァッッだめぇぇぇ舌だめぇぇぇッッ!!!」
「舐めてるだけでイきそうだな・お前」
「あっあんっっ」
立ち上がった琉風の雄から真っ赤になってヒクついている秘部にまで垂れてきていた先走りを理の舌が大きな動きでべろりと舐め上げる。
明らかに理が舌で施した秘部への愛撫で滴り落ちてきたものだった。
「ケツ穴舐めただけでイったりシたらスケベなコトこの上ねえな・ん?」
あとからあとから滴り落ちる先走りを舌で舐めとりながら言う理の声は笑いを含んでいる。
「やだ…」
「何がだよ」
「イかせないで…」
「イけよ・ケツ穴舐められて」
「やだァッそんな恥ずかしいのやだぁぁぁッ!お願い理ヤァァァァッッ!!!」
嫌がり叫ぶ琉風の足の間に再び顔を埋め理は琉風の秘部を舌で嬲る。
尖らせた舌先を秘部に捻じ込んだり口全体で覆って嘗め回し吸い上げるが雄の方には触れようともしない。
それなのに琉風の雄は執拗な愛撫でも受けたかのように次から次へと先端から雫を垂れ流していた。
じゅばじゅばじゅばっじゅるっじゅるるるるっ。
「あァァァーッッ!!!あんっあんっひゃぁんっやはぁっあぁんっすすっちゃぁッあんっあうぅぅぅぅんッッ」
舌でしつこく嘗め回され、口全体で秘部を覆い吸われ啜られそしてしゃぶられ、
その際に立つ音すにら琉風は感じ興奮してしまっていた。
このままでは本当にイかせられてしまう。雄を舐められた訳でも触れられた訳でもない。
秘部の奥にある気持ちのいい場所を突かれた訳でもないのに。
秘部をただ舌で舐めしゃぶられた。それだけの行為でイキそうになっている。
「だめぇお願い吸っちゃやだぁッソコもう舐めないでぇッ!イク………イクからもう舐めないでこんなので
イクのやだよぉッそんな恥ずかしい事してイかせないでぇッお願いお願いやめてぇぇぇぇぇッッ!!!!」
自らの雄に精を吐き出す感覚を覚えたのを感じ琉風は必死に叫んで哀願すると、双丘に顔を埋めて
琉風の秘部を貪り舐めまわしていた理が顔を上げて静かに囁く。
「ケツ穴舐められてイっちまえばいいだろ・スケベなアコサン?」
「…!!!………やはぁぁあッあんッヤァァァッッイクっイクぅッあぁん理ぃッあぁんっあんあんアァァァァァァーーーーッッ!!!!」
理の口腔の感触を秘部で激しく感じさせられビクッビクッと何度か琉風の腰が浮く。
達する寸前雄の先端部分を理の掌が覆い、琉風はそれに擦り付けるように腰を突き出しびしゃびしゃと精を放った。
「飛ばしすぎだっての・危うく服汚すところだったぞ?」
「うぅっあっひ…あっ…ひぅ…」
秘部を舌と唇で愛撫されただけで達してしまった恥ずかしさで涙が溢れてくる。
だから最初に脱ぐと言ったのにと言い返すことが出来ない程に感情を乱されていた。
「ひぁッ…!」
零した涙を唇で吸われ、覆いかぶさってくる理の顔が琉風の間近に見えた時感じた、秘部に押し当てられていた熱いモノ。
見なくても秘部を擦られる感触で理の雄だと分かる。
「あぁっあっあっあッ」
挿入はせずに軽く何度か圧迫してやるとすぐに琉風の腰が揺れだし、それを見た理が満足げに笑った。
「ヤダとかヤメテとか抜かした奴が何腰振ってんだ・こうサれんのが本当は好きでたまんねえクセにな」
「あっあっあんっあぁッあぁぁッ」
僅かだか先端が挿入され浅く抜き差しが始まると琉風の腰はさらに大きく動き始める。
入り口を舌で舐められただけだったが徐々に深くなっていく挿入に苦痛は少しもなく、むしろそれはじれったさでしかない。
抜き差ししながら半分程まで挿入されたが更なる悦を覚えてる身体が満足する訳もなく、ついに琉風はまた泣き出していた。
「ひあぁっあぁッあんっもっとっもっと奥にッやぁっやぁぁぁッッ」
「…………」
「やだぁぁぁッ!抜かないで抜かないでッ行っちゃやだぁッ!!」
理が腰を引いて雄を引き抜こうとしたので理に抱きついてそれを止める。
「入れてっ…気持ちいぃの止まらなくして…んっ」
羞恥も忘れ強請る琉風に顔を近づけ重ねてくる理の唇を素直に受け止める。
その間に琉風の望み通り理の雄は琉風の最奥へと沈められていった。
「んぅぅぅぅッんっんっあぁッはぁ…ぁんッ」
首筋に這う唇に僅かに肩をすくめながら首を横に向けた拍子に視界に入るベッドの側の窓。
「や…窓は…だめ…!」
手を伸ばしカーテンに手をかけようとする琉風の手は理の手によってあっさりと引き戻されてしまう。
「誰も見ちゃいねえって」
「でも…っ待っ…あぁッ」
「それに・ソノ格好なんだ、見られたとしても誰もお前だって気づかねえよ」
今居る部屋は2階とは言え表通りに面した場所。
それでも万が一誰かに見られる事があったとしてもアコライトの服を乱され、ほんの僅かではあるが
パンティで下肢を覆っている状態の今では確かに琉風が男だとはすぐには気づかれないだろう。
それでも部屋が明るく、外が真っ暗なせいで精液に濡れそぼり、理の雄を咥え込んでいる猥りがましい
下半身をはっきりと映す窓の存在は琉風にとっては自分の恥部を他人に、そして自分自身に晒す恥ずべき対象にしか感じられなかった。
「や…あぁッひッあァァァァァァッッ!!!」
せめて窓のカーテンを閉めたいと理に伝えようにも突きこまれた雄が動き、これが悦を与えるものだと
理解している身体は心よりもすぐにそれを受け入れ思い描いた言葉は意味を成さない喘ぎとなって琉風の口から零れ落ちる。
理は肩に置いた琉風の手を離させ捲れているスカートを掴ませた。
「そのまま自分で捲ってろ・汚したくねえだろ」
「ふぅんッ…あッあんッあぁッひゃんッあぁぁぁッッ!!」
捲ったスカートを胸の辺りで強く両手で握り、雄で貫かれながら自分の姿が見えるのが恥ずかしいと
思いつつも誰かに見られていないだろうかと気になって窓を見てしまう。
「……あっ…あぁッ…あハぁぁッ………」
そこに映るのは、足を開かされ理に身体を揺すられている姿。
――――理に抱かれ恍惚とした表情を浮かべるアコライトの女の子。
「………ッッ!!!!………」
琉風は握っていたスカートを離して理に向き直りすがりつく。
「なんだよ・窓見てりゃイィだろ?」
「やだやだ理ッ理…理がいいっ」
顔を窓に向けさせようとする理の手を首を激しく横に振ってふりほどき、どこか必死な様子で理の胸に擦り寄った。
「窓なんて見たくない、理のことだけ見てたいよ…」
「…………」
「あぁッあぁぁぁッあはぁッあッひあぁぁあああッッ!!!」
突然乱暴な動きになり琉風が一瞬戸惑うも背中に腕を回してそれを受け入れる。
「あ…アァ…こと…わ…り…ことわり…理ぃっあぁん理ぃッあぁぁあんッッ…んっんぅ…ッッ」
プロンテラの町で転びそうになった時優しく抱き寄せられた腕よりも、犯人をおびき出すためにとそっと口付けられた唇よりも。
激しく貪る今の理の行為と、噛み付くようなキスに心の底から安堵し琉風はそれを受け入れた。
* * *
「あれ、布団が綺麗だ」
一緒なのが恥ずかしくて一足先に風呂から上がった琉風が離れた時には寝乱れていた筈のベッドがきっちりとメイキングされている事に気づく。
一足遅れて理が浴室に来たので、恐らく理が整えていったのだろうと深くは考えずにベッドに倒れこんでシーツの感触を楽しんだ。
「!!」
寝転んだ瞬間窓に自分の姿を見て一瞬驚くが、映ったのはいつもの自分で思わずほっと胸を撫で下ろす。
「良かった…俺だ」
「お前はお前だろ・それ以外なんだってんだ」
「理」
突然背後で聞こえた声で振り返ると、ガウンを羽織り飲み物片手の理がベッドに腰掛けた所だった。
「違う頭装備して化粧して、服も女の子のものを着て。なんだか自分じゃないみたいに見えたんだ」
窓に映る姿を見ながら言う琉風の様子を口の端を上げ残っていたものを全て飲み干し、
ベッドに横になると同時に隅に座り込んでいた琉風を布団の中へと引きずり込む。
「待って…カーテン閉めてから…んっ…」
身につけていたガウンの腰紐を解き裸にさせられながら抱きしめられると、さらりとした布団の感触と
身体を包まれる腕の感触が心地よくてカーテンに手を伸ばそうとしながらもつい身を委ねてしまう。
「ブチ込まれた姿映した窓がそんなに気に食わねえのか・恥ずかしいとか言いながら感じまくってたクセにな」
伸ばされた手を捕まれ完全にベッドに引き込まれ、言われた言葉に顔を少しだけ赤くして身体に
巻きつく腕を受け入れながら琉風は行為の最中に考えていた事を素直に口にした。
「理が俺じゃない…別の女の子を抱いてるみたいで…そういう風に見えるのが嫌でだから…んっ…」
濡れた琉風の銀髪を手で梳いて頬を撫でると気持ちよさそうに吐息を漏らしてその手にすりつく。
「イィからもう寝ろ」
「………ん…」
そのまま何度か頬を撫でられ続け、ゆっくりと襲い来る眠気に身を任せた。
「……………」
琉風の寝息を聞きながら理はベッドサイドの小さな明かりで映る自分と眠る琉風の姿を見て咥えた煙草を上下に揺らす。
「ったく・自分に自分で嫉妬とか阿呆かよ」
* * *
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かのこ様のリクエストで
『琉風がギルメン達にかまわれつつ最後は理でしめてもらうお話』
というリクで、女装も捨てがたい。とのことだったのでいじられ要素として導入
してみました(*ノノ)
これは大丈夫かな、これはどうかなかな、と色々心配しつつの
執筆でどこまでご期待に沿えているかは分かりませんが、
かのこ様にお捧げさせて頂きます。
少しでも楽しんで頂ければ幸いですv
そしてちょっと悪ノリドット絵を↓にはっつけてみました。
OK分かってる、予想ついてるという方は下へドゾー。
ちょん。
ちょっとした出来心なんですっ><