まだケダモノにさせないで。

 

どたっ。

彩の身体が斜めに傾き史乃の太腿に頭を乗せるような形で倒れこむ。
「おーい、彩マスー?」
まだ酒が半分ほど入ったグラスをゆらゆら揺らしながら史乃が顔を近づけると
すぴー、すぴーと規則正しい寝息が聞こえてくる。
「…つぶれたかー」
「彩マスにすれば飲んだ方だろ?」
「だなー。俺に付き合えるなんて朱罹くらいのもんだろー」
朱罹は目だけで笑うと残りの酒を一気に呷ると立ち上がった。
「さーて出発時間まで少し寝とっかな。狩場で居眠りとかシャレになんねーし」
「あー明日…っつかもう今日か…早朝狩りだとか言ってたもんなー。
 ワリーな、ウチのマスターのワガママにつき合わせて」
「いいよ。久しぶりに彩マスの『突然通りすがりの人』の話いっぱい聞けて楽しかったし!
 ほんとイジリ甲斐あるよなぁこの人」
そう言って史乃の膝の上で眠る彩を起こさないようにそっと抱き上げた。
史乃が背にしているベッドに寝かせると、朱罹は自分が着ている上の胴着を脱ぎ捨てその隣に潜り込む。
「朱罹…ナニしてんだー?」

「ん?彩マス抱き枕にして寝んの」

「自分の部屋あんだろー?なんでわざわざ1つのベッドでぎゅうぎゅう詰め状態で寝る必要あんだよ」
「部屋のバスルームリィと琉風に貸してるんだよ。俺を第2ラウンド入ってるだろう
 2人のとこに平然と戻っていく空気読めない男にさせたい訳?それに」
くるりと後ろをむいて史乃の耳に顔を寄せて囁く。
「史乃がケダモノにならないように彩マスのことちゃんと俺がガードしてやるから」
「お前なー…なるわけねーだろ」
顔は動かさないものの横目で半分呆れ顔で朱罹見ながらグラスを傾けている。
「わっかんないぞー魔が差すとかよく言うだろ。ふとした衝動で今までの関係なんて簡単に壊れるもんだぞ?」
「そんなんで壊れるならもうとっくに壊れてるってーの。俺がどんだけ長い時間
 彩マスと同じ屋根の下で過ごしてたと思ってんだよ」
「今は状況が違うだろ。莉良は女の子のギルドメンバーと一緒に寝てる筈だから風音に
 怖がって布団にもぐりこんでくることなんてないだろうし、いつもは別室の彩マスはしかも酔った
 状態。俺居なくなって2人っきりになって何にも無く過ごせるとか本当に言い切れんのか?」
「言い切れる。当然だろー?」
「ふーん…」
言葉が切れ朱罹が急に無言になる。何か背後でごそごそと何かをしているような
音はしていたが気にせず史乃は飲み続けていた。

むしろ気にしないフリをしていたと言った方が正しかったのか。

「史乃、こっち向けよ」
「寝るなら寝ろよーさっきから何やって――――」
振り向いた史乃の言葉が途切れる。
目の前に無防備に眠り続ける彩の姿。
きちんと留められていた服の前は朱罹によってはだけられており、酔ったせいかうっすら
桜色に染まった胸の先端で普段は見えない薄紅色の乳首がぷつりと存在を主張している。
ズボンのファスナーは下ろされており、少し指を添えれば雄が覗くのではというくらいの
所までズボンが脱がされている状態だった。
言葉も出さずに史乃が彩の肢体を凝視していると、その上に馬乗りになっていた朱罹が
人差し指で彩の心臓側の乳首を軽く押しつぶす。
彩の身体がそれに反応してぴくんと小さく跳ねた。
「起きないか…結構飲んだせいかなぁ」
そう言いながら乳首に押し付けている指をくにくにと上下に動かした。

「あッ…ん…」

先程よりも刺激が強かったせいか今度ははっきりとした喘ぎを漏らす。
「彩マス結構感度いいんだな。身体細いけど均整取れてるし、引き締まってるし…アソコもすっげ締まりいいんだろうなぁ…」
乳首から指を離し、眠りの邪魔してゴメンネと彩の額に口付け史乃の方を向き、
ほら見ろと言わんばかりにうっすら口元に笑みを浮かべた。

「史乃、今の自分の顔鏡で見てみろよ……雄のケモノみたいな顔してるぜ?」

「………見なくても分かるってーの…」
自覚のなかった情欲を見透かされてバツが悪そうに史乃がベッドのシーツに顔を押し付けて隠す。
「むしゃぶりつきたくてたまんなくなったろ。この無防備な身体に」

「そーだよそーだよソレ見ただけで半勃ちになっちまったよ悪ぃーかこの」

「悪くないってかむしろそれが正常反応だと思うぞ。でも…史乃はまだ抱きたくないんだろ?
 だから俺が彩マス抱っこしてガードしてやるっていったんだよ」
「あーあーそーしてくれ」
「最初からそう言やいーんだよ……なんなら。寝る前にその半勃ち鎮めてやろうか?」
史乃の肩に手をかけて耳元で囁くとぺろっと耳を舐める。
「この程度ならほっときゃ鎮まる。彩マス抱き枕にでもしてとっとと寝ろー」
「そっか、わかった」
あっさり引き下がると彩の脱がせかけたズボンを元通りに戻し、上の服だけを脱がせて床に投げる。
「んじゃ寝るなー。おやすみ」
「ん。おやすみー」
朱罹は彩を抱き込むようにして史乃に背中を向けると、ほどなくして2人の寝息が史乃の耳に入ってくる。
空になったグラスを床に置きはぁーっと深いため息をついて立てた自分の片膝の上に額を乗せて呟いた。

「『まだ』だ。まだケダモノにはなりたくねー…」




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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