キスは、何のため?

 

「ん…」
目を開くと目の前に澪の顔があった。
「気分はどう?」
「あ……」
「まだ眠いかな?かなり激しかったみたいだし」
「………!」
それを聞いた琉風が勢い良く飛び起きた。
「俺的には全然構わないけど、琉風的には恥ずかしいかな?」
「…!……わぁっ!すみませんすみません!!」
澪にそう言われて自分が全裸だったということに気づき、慌てて自分の身体を布団で隠した。
「あ…えと…ここは…」
そこでやっと琉風は自分が今いる場所がさっきまで自分がいた場所ではないことに気づく。
「うちのギルドの砦でここは俺の部屋。あの場所に長く居るのもなんだから連れてこさせてもらったよ。
 ここは琉風に危害を加える人間は誰もいないからゆっくり休んで…」
「いえ、もう大丈夫です!目、覚めました!」
琉風の物言いにくすくすと笑うとそばの椅子にたたんで置いてある琉風の服を指差した。
「服そこね。右のドアが浴室だから、シャワーでも浴びてくるといい」
「あの…」
「俺は隣の部屋にいるから終わったらおいで」
琉風の問いかけに何も答えないまま澪は部屋から出て行った。

こつ、こつ。

手早くシャワーを済ませて澪がいると言っていた隣の部屋のドアをノックする。
「入ってきていいよ」
琉風がドアを開けると、澪が中央のソファに腰掛けて本を読んでいた。
「座って。あとこれも飲んで」
テーブルに乗っている淹れたばかりなのか湯気が立っているカップを指差す。
「あっ…あのっ…」
「飲んでくれないと何も答えてあげないよ」
「…………」
琉風は澪の向かいに座るとカップを手に取り一口だけ飲んだ。
そのまますぐに話を切り出そうとしたが、その飲み物の香りに惹かれてもう一口啜る。
ほぅ…と吐息を漏らした琉風ににっこりと澪が微笑みかけた。
「いい香りするでしょ。ここらで採れるお茶でね、気持ちを落ち着かせる作用があるんだよ」
「はい…美味しいです」
「喜んでもらえてよかった…さてと」
澪が読んでいた本を閉じる。
「色々聞きたいこと、あるんだろう?」
「はい、理は…」
「ん?リィならクスリも抜けて元気だよ。琉風をここまで抱いてきたあとうちのメンバーと出かけちゃったけどね」
「そうですか」
「まぁここに居てもらったら俺がちょっと都合が悪いから追い出したようなもんだけど」
「え?」
琉風が聞き返すが澪はそれには答えず笑っただけだった。
「話を続けようか?」
「あ…はい」
澪が理を追い出したという意図も気になったがひとまず澪の話に耳を傾ける。
「琉風はもう会いたくもないと思ってるハイウィザードがマスターやってるギルドなんだけど。
 拉致といい意図的な古木の枝を使ったテロといい、最近過激な行動が目立ってきてる」
「テロの方は大丈夫だったんでしょうか…」
「大丈夫。うちのギルドと同盟ギルドで鎮圧したよ。かなりの数だったらしいけど
 大物がいなかったせいか被害も最小限だったらしいね」
「そうですか、良かった…」
ほっと安堵した様子の琉風を見て、澪が話を続ける。
「でね。今回龍之城に乗り込んで攻撃を与えたことで向こうのギルドは俺達のギルドは
 もちろんのこと琉風も完全に敵とみなしたと思うんだ」
「でも、俺は間違ったとは思ってないし、やらなきゃよかったなんて思ってません」
「琉風ならそう言うと思ったよ。ありがとう、やっぱり君は強くてやさしい子だ。今回は……
 その感謝の気持ちを『強制的に』態度で表したいんだ」
澪の言っている事がわからずに琉風が無言で首を傾げる。
「俺のギルドで唯一同盟結んでるギルドがあるんだけど。そこに加入して欲しいんだ」
「ギルド?」
「勢力的にはまだ脅威というほどではないけど、過激な性格の攻城戦ギルドに目をつけられてしまった以上未所属、
 しかも単独で歩き回るのは危ない。ギルドに入ればある程度の危険は回避できると思う。
 不本意かもしれないけどこれは拒否しないでほしい」
「澪さん俺…」
断ろうとした。
ギルドに入れることで澪が自分のことを守ろうとしている。
今までのことは強制されたわけでもなく、全て自分で決めて行動したことであり、
自分で決めた行動に対する責任は自ら取るのは当然のことと思っていた。
守ってもらうような、そんな待遇を受けるわけにはいかないと。

「琉風なら、分かってくれるよね?」

断ろうとしている空気を感じ取ったのか澪の口調に威圧がこもる。
身体にずしりと来るような見えない重圧。
まっすぐに見据える瞳が、琉風に喉元まで来た拒みの言葉を飲み込ませていく。

「わかり…ました…」

最後に出たのは考えていたこととは全く反対の言葉。
「ありがとう」
澪のその言葉と同時に身体にのしかかっていた威圧も消える。
ほっとすると同時に自分と澪との力の差を見せ付けられたようで悔しくなった。
修道院を出て、一人で頑張って強くなったつもりでもあくまで『つもり』で。
自分はまだこんなにも弱い。
そんな琉風の頭を澪がそっとひとなでする。
「これから入ってもらう同盟ギルドはリィが普段所属してるギルドだよ。
 誰も知らない人間ばっかりって訳じゃないから安心して」
「あっ…あのっ…」
理の名前が出たと同時に黙っていた琉風が慌てて切り出す。
「ん?」
「澪さん何か勘違いしてるかもしれないんですけど俺、理とは…別に……」
語尾の方はほとんど小さい声になってしまう。
「恋人同士なんじゃないの?」
「違います違います!そんなんじゃないです…!」

「そんなんじゃない人間とセックスするんだ。琉風は」

「……っ…!」
核心を突かれる事を問われ琉風の顔が一気に紅に染まる。
「あの時ドア口で聞いた会話で『琉風って子以外とSEXするのはそんなに嫌?』
 の言葉から考えるとあの時が初めてな訳じゃなさそうだよね」
「あの時は無理矢理ッ…!俺は嫌だった…嫌だった!」

まるで自分自身に言い聞かせているような言葉。

「そう…琉風は嫌だったんだ。だったら、どうしてあの時鍵を持ったまま
 逃げずに残ってリィに身体を好きにさせたの?」
「それは…澪さんがギルドメンバーに性欲処理させるって言ったから!」
心を裸にされていくような感覚に琉風はこの場から逃げ出したくなった。
「それが理由?」
「そう…です」
「リィとセックスしてもいいっていう人もいたかもしれないのに?リィが琉風以外の
 人間を相手にしたかったかもしれないのに?」
「それはッ…!」
「本当はリィが他の人間とセックスするのが嫌だっかからでしょう。知ってる?そういうのを嫉妬っていうんだよ」
「や……やめてくださいっ!」
泣きそうな顔をして叫んだ琉風を見て澪はやっと言葉を切る。
「…意地悪したけど、謝らないよ今回は」

*  *  *

「あー彩マスだっあーやーまーすぅーっ!」
砦の門の上で胡坐をかいていた朱罹が門をくぐって行く金髪のスナイパーに向って手を振った。
上にいる朱罹の姿が分からないのかそのスナイパー・彩はきょろきょろと周辺を見渡している。

『ノピティギ!!』

朱罹は立っている足場に反動をつけて思いっきり飛び上がった。
「うぉぉぅっ」
目の前に着地すると驚いたように彩が一歩後方に退く。
「なんだ朱罹か、脅かすなって…」
「いらっしゃい彩マス」
そのまま彩の隣に並んで砦の門をくぐる。
「彩マスがここに来るなんて珍しいな。ひょっとして次の攻城戦は彩マスも参戦?参戦?」
「違うよ。ここには別の用事」
「なぁなぁたまには一緒にやろーぜー」
「…………気が向いたらね。そうだ朱罹、澪は今どこいるか分かる?」
「澪マス?用事って澪マスに会うため?」
「うん」
「本当に?絶対?」
「そうだけど…なんでそんなに念押す訳?」
「だってさ…」
そこまで言って朱罹が口ごもる。
「朱罹?」

「澪マス今自室だけどさ、真昼間から男部屋に連れ込んでんだよ」

「…な……に……?」
「彩マス?」
しばらくの沈黙のあと、ものすごい勢いで砦の中に入っていった。
「澪マスが今………あーもー聞かないで行っちゃったしー」
確信犯のような笑いを浮かべてあとから付け足した朱罹の言葉は、もちろん彩には聞こえていない。
「澪ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!」
ノックもせずに澪の部屋のドアを蹴り開ける。
「はいはいはい、そんな大声出さなくてもちゃんと聞こえてます」
澪がソファにに座ったまま息を荒くしてしている彩の方を振り返る。
「この真昼間から通りすがりの男を部屋に連れ込むなんて何考えてるんだ!!」
「いやだからいつも思うんだけど。その通りすがりの人ってどこから来るんだ彩?」
「どっかその辺からだ!」
「長い付き合いになるけど彩の『それ』。いつになっても愉快でたまらない俺」
「愉快言うなぁ!」
「あぁ琉風。あんなんだけど一応君のマスターになる生き物だから」
「その上人を生き物呼ばわりするな!……って……琉風?」
「そう、琉風。wisで話してた新しく彩の所のメンバーにしてもらいたいって言っていた子」
「今入り口で朱罹が男連れ込んでるって…」

「うん、間違ってはいないね。その男っていうの琉風で、
 起きるまで俺が介抱してたっていう最重要部分が抜けてるけど」

「………………」
「とてつもない勘違いしてたって自覚した?」
彩が無言でうなずいた。
「それは良かった。じゃあここにお座りなさい」
「……ハイ」
毒気を抜かれたかのような勢いで大人しくなった彩が澪の隣に腰掛けた。
「改めて紹介するね琉風、彼は彩。俺のギルドと同盟を結んでいるギルドのマスターで俺の友人。
 誰かもわからない通りすがりの人を勝手に登場させて被害妄想するクセがよくあるけど慣れれば楽しくなってくるよ」
「最後の一言は余計だ!」
澪に怒鳴ったあとに一つ咳払いをして琉風に向き直って、ようやく琉風の目が潤んでいたことに気づく。
「澪…何お前泣かせてんだよ」
「琉風が天邪鬼であんまり可愛いから意地悪しちゃったんだよ」
「相変わらずヒネてんなお前…」
そう言うと、澪の袖の部分を手に取るとそれで涙を拭うように彩が琉風の顔をわしわしと擦る。
「…っうぷっ…」
「彩…俺の袖はハンカチじゃないんだけどね」
「グダグダ言うなよいじめっ子」
澪の袖を捨てるように指ではじくと今度は琉風の頭をわしわしと撫でる。
「澪に何言われたかわからないけどあんま気にするなよ?」
「うわぁっ…えっとっ…」
頭を撫でられ続ける琉風の顔を、澪がそっと覗き込む。
「琉風。俺のこと嫌いになった?」
俯きながらも小さく首を振る琉風の頭を優しく撫でた。
「ありがとう。今度は新しいギルドメンバーと一緒に遊びにおいで」
「…はい…」

*  *  *

「琉風ってさ、今まで泊まるとことかどうしてたんだ?」
プロンテラの大通りから外れた細い道を歩きながら彩があとからついてくる琉風を振り返って問いかける。
「たまに宿使うことはありますけど野宿とかもしてました。
 長期間狩場にとどまることもいあったんで木の上で寝たりとか…」
「これからは住むところの心配はなくなるぞ。うちのギルドは家有だからな」
「ギルドメンバーの共同住宅ってことでしょうか」
「そそ。いま確か家に…」
彩が立ち止まったのは街から少々外れた所にある一件の家の前。
「おーお帰り彩マス」
彩がドアを開けようとした所で、鮮やかな赤毛を無造作に短く切ったホワイトスミスが
二人の後ろから軽く手を上げ声をかけてきた。
「そっちもお帰り。どっか出かけてたのか?」
「ん、スフィンクスダンジョンで犬狩りー。で、その子誰?」
と、琉風の方を指差す。
「あぁ、新しいギルドメンバー」
「へー、珍しいなー新人なんて」
「澪の紹介なんだ」
「澪マスの?それはますます珍しーな」
「その辺りは紹介がてら後で説明するから。琉風、入って」
「はい」
彩が琉風と一緒に中に入る前にホワイトスミスが入って中に向って叫んだ。

「おまえら聞けぇえええええええ!!彩マスが男連れ込もうとしてるぞおおおおおおおおお!!!」

「こっ…こらぁぁぁぁっっ!!新しいギルドメンバーだって言ったそばからわざとに
 誤解を受けるような言い方するんじゃなぁぁぁぁいっ!!」
「真昼間から随分大胆なことするね彩」
彩がホワイトスミスの襟を掴んで揺さぶっていると静かで透き通るような声が聞こえてくる。
琉風が声のした方を見ると、すぐ横に長いセピアの髪を軽く後ろで束ね、
朱色の法衣を身につけたハイプリーストが立っていた。
「男の子連れ込むとか。きみいつから歩く下半身になったの?」
「らこ!いつ帰ってきたって…その前に歩く下半身ってなんだ!!」
「今帰ってきたの。この子、新人さんでしょ?」
『らこ』と呼ばれたハイプリーストは少々唖然とした様子で自分をじっと見ている琉風の方に視線を向ける。
「…?…なんで知ってる?」
「澪から聞いた。彩がチュンリムの明亭に行くって言うから何かあるって思ったから」
「そうか…………で、らこ。そこまで知っていて何故俺を歩く下半身呼ばわりするのか詳しく聞かせてもらおうか」
「こんにちは新人さん、初めまして」
「俺を完全無視かぁ!!」
叫ぶ彩のことを全く相手にせずにハイプリーストが琉風に話しかけてくる。
「はじめまして、俺琉風っていいます」
戸惑いつつも琉風が名乗るとにっこりと笑って手を差し出してくる。
「琉風くんか、よろしく。私は桜子、ここのギルドのサブマスターやってるの。
 桜子って呼びにくいだろうから『らこ』って呼んで」
「よろしくお願いしますらこさん」
「あー俺も俺も」
桜子の差し出された手をとり握手をすると、ホワイトスミスも手を出して来る。
「はい…うぅわぁぁああっ」
琉風がその手を取ると同時に握手をしてくる。握手、というよりも琉風の手を
ぶんぶん振り回していると言ったほうがむしろ正しい。
身体ごと振り回されそうな勢いで思わず琉風が間の抜けた声を上げてしまう。
「俺史乃ね。ここのギルド入ったからにはマスターいぢりを極めろよ。
 彩マスの絶叫に快感を感じるようになって正式メンバーだからなー」
「適当なことを吹き込んでんじゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!」
「こんな具合にな。まぁよろしくー」
「は…はい…」
叫ぶ彩を指さし爽快な笑みを浮かべる史乃に若干たじろぎ気味の所で今度は家の中から二つの影が動く。

「おかえり。なぁ史乃、彩マスが男連れ込もうとしてるって?」
「彩マス…えっちだなぁ…」

ドア口で顔を出してきたのは琉風とそう歳の離れていなそうなチェイサーと、少女の幼さが残る小柄なローグの二人。
「お前らな…二人そろって収拾つかないこと言うなっ!!新しいギルドメンバーだって言ってるだろうがぁ!!」
ドア口の二人にそう叫ぶなり彩が琉風の腕を掴んで家の中に半ば強引に引きずり込む。
「え…え…?」
わけが分からないまま琉風はそのままずるずると引きずられていった。
「琉風、とりあえず中で話そう。こいつらいたらまともに話もできない」
「あー本当に連れ込んでるし…」
「黙れ莉良ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
小柄なローグに向って叫んだあと、琉風は引っ張られるように奥の部屋へと連れて行かれた。

「悪意はないんだが…とにかくあぁいうノリの奴らなんだよ」
家の一室で彩は椅子に腰掛け、額に手を当てて困ったような表情を浮かべている。
「でも、すごく楽しそうですね」
「………………………あれで?」
「はい、俺ずっと今まで一人だったし、修道院でも戒律厳しくてあぁいう雰囲気って
 味わったことなかったんで、ちょっと羨ましかったです」
「琉風ぁぁッ!」
少しだけ目を潤ませた彩ががばっと琉風に抱きついてくる。
「えっ!?」
「一人で寂しかったんだな…!」
「あの…」

修道院から出てからの今までの生活は確かに厳しくはあったがそれなりに充実したもので、
実際彩が涙ぐむほどの孤独さは無かったのが事実だ。
だがそれを言えるような空気でもなくひとまず大人しく彩の腕に収まる。

「もう大丈夫だぞ。今日から俺らがお前の仲間だからなっ…ちょっとだけ…
 ほんとにちょっとだけ変なとこ多い奴らだけど…その辺はあんまり気にするな……!」
「はい…わかりました…」
「まぁ、成り行きでこんなことになっちゃったけどな」
琉風から離れるとギルドエンブレムを差し出した。
そのエンブレムを受け取り琉風がそれを袖口に付ける。
「改めてよろしく。琉風」
「こちらこそよろしくお願いします、マスター」
「じゃあまずはここの………………」
彩が急に話を中断し無言になる。
「?」
不思議そうに見る琉風をよそにそのまま足音を立てずにドア口に方に立つと、そっとドアノブに手をかけ勢い良く開いた。

どちゃぁっ。

ドアのそばで聞き耳を立てていたであろう三人が重なるように床に倒れこんできた。
「お前ら。隠れるならもっと上手に隠れなさい」
「だって彩マスばっかり話してずるいじゃないですか、俺らだって新しいメンバーと話したいのに!」
「あとで改めて紹介するからリビングで待ってろ呂揮」
中央に位置するチェイサーをそう言って咎めた。
「彩に次ぐいじられ役の呂揮くんとしてはやっぱり気になる所だよね。琉風くんもタイプ的に
 いじりやすそうだし、降りかかる火の粉を分散できそうだしね」
一番上の桜子は頬杖をついてすぐ下の呂揮の顔を覗き込む。
「らこさん…ピンポイントで図星つくの反則ですよ」
「のんびり会話してないで降りろ二人とも!つぶれるってーのっ!」
一番下で二人分の体重を受けている史乃が叫ぶ。
「出た出た。そんなことばっかりしてたら琉風が引いちゃうだろうが」
彩が立ち上がったメンバーを外に出るよう促し、琉風の方へと向ってくる途中でぴたりと足を止めた。

『集中力向上!!』

すぐ隣で炙り出された莉良が目を細めて睨む彩を見上げて悪戯っぽく笑う。
「…エヘぇ」
「エヘぇ。じゃないっ!莉良も出ろ!」

「莉良ぁぁぁぁぁぁーーーーーっっ!!!」
「あぁー最後の砦がー!!」

「盗み聞きさせようと部屋に上手く侵入させたつもりだろうがそうは行くかぁ!」
彩の言葉にドア口で落胆の声を上げる史乃と呂揮に向って彩が得意気に言う。
「ばれちゃったー」
莉良が舌を出しながら立ち上がった3人の所へ小走りに寄っていく。
「莉良くんだめだよあんな近くにいちゃ。アーチャー系は集中力向上で至近距離なら今みたいに炙られちゃうよ」
「ごめーんらこさん。すっかり忘れてたぁ」
「こんなんなら俺行けばよかった…」
「呂揮、お前誤爆するからダメだ。こないだの攻城戦の時なんてなー」
「わぁわぁわぁ!!史乃!!それ言っちゃだめだって!!!」
「エンペルームの前で澪マスの…」
「だから言うなってば史乃!!!」
「おらおらとっとと散れ散れ散れぇぇぇぇぇぇっっ!」
ドア口で騒ぐメンバーを部屋から出してドアを閉めると彩がはぁ…と息をつく。
「あ、ごめん。びっくりした?」
「…ちょっとだけ」
「あんな奴らだけどさ、根は悪い奴じゃないから」
「それは、分かります」
それを聞いた彩の顔がやんわりと笑顔になる。
「んじゃ、まずはギルド内の説明から行こうか」



「は?拉致?」
「し。声大きいよ史乃くん」
テーブルの上に腰掛けている史乃に向って『静かに』というように桜子が人差し指を唇に当てる。
「前にリィくん攻城戦を理由も言わずに抜けたことがあったでしょう?その時に琉風くん
 ひどい目に遭ってたらしいんだ。それを助けにいってたみたい」
「リィがギルドと無関係の人間を助けるなんてなー、どーりでだんまりな訳だ」
「相手の方はひとまずあれ以来大きな動きはないようだけど、あきらめた訳でもないっていうのが澪の読み」
「でしょうね。あいつらの攻城戦とかの攻め方見てたらすごいしつこいのは分かりますし」
テーブルに頬杖をついたままで呟いた呂揮は攻城戦でのことを思い出しているらしく不愉快そうな表情をしている。
「見たところ琉風くん一人で抱え込もうとするタイプっぽいからみんな
 しばらくの間気をつけて見てて欲しいんだ。あと自衛もしっかりね」
「はいはいらこ先生質問いいですかー」
そう言いながら史乃が右手を上げる。
「はい史乃くんなんですか?」

「自衛は尻も含まれますかー」
「もちろん含まれます。むしろ望むところだというのであれば止めはしません」

恥じる様子もなくあっさりと桜子が答える。
「だってよ呂揮。しっかり自衛しろよ」
史乃が呂揮の肩をぽん。と叩く。
「ばッ…なんで俺だけなんだよッ史乃ッ!!」
頬杖を解いて肩に置かれた史乃の手を払って呂揮が叫ぶ。
「どっちかってーと俺やリィよりお前だろー」
噛み付くような勢いで怒鳴る呂揮の頭をぐりぐりと撫でる。
「大丈夫だよー呂揮。ちゃんとあたしも守ってあげるからね」
莉良が後ろから呂揮の首に抱きついてにやにやと笑う。
「うるさいこのおっ…………ちょっ待てっまだ何も言ってないだろッ!」
首にかかっていた莉良の腕に力がこもり呂揮が慌てる。
「最初の一言だけで何言いたいかわかっちゃったよぉ…?」
「馬鹿っお前本気で締めんなっ!ギブギブギブギブッ!!」
そのまま呂揮の首を莉良がものすごい勢いで締め上げ呂揮がばんばんと机を叩く。
「莉良くん殺さない程度にね……あ、向こうも終わったみたい」
桜子の言った通り廊下から足音が聞こえ、彩とその後ろに琉風がついてリビングに入ってくる。
「そっち、終わったか?」
問いに桜子が軽く頷いたのを見て彩が話を切り出す。
「んじゃ改めて紹介。今日から新しくうちのギルドメンバーになった琉風」
「琉風です。よろしくお願いします」
ぺこりと琉風が頭を下げる。
「えーと、名前聞いてない奴もいるだろうから紹介してくな。すぐ手前にいるハイプリーストが
 桜子でうちのギルドのサブマスター。すぐ隣にいるホワイトスミスが史乃、
 向かいに居るチェイサーが呂揮でその首に絡まってるのが莉良。
 で、今ここにはいないけどもう一人のチェイサーの理、そして琉風で全員な」
「あーそういえば。なー彩マス、リィギルド抜けてねー?」
「リィくんなら狩りに行くついでに抜けていったよ」
史乃の問いに桜子が代わりに答える。
「…狩り相手って四季奈?」
「そうだけど。よくわかったね史乃くん」
「四季奈がリィを狩りに誘う時絶対ギルド抜けさせっだろ」
「うん。さっきwisでGV以外でリィ君と同じエンブレムだウヒャッホゥゥ
 死ぬなら今だねとか言ってすごい興奮してた」
「どうせ時計4で魔女砂乱獲だろ?その分だと夜まで戻んないだろうな」
「仕方ないよ。四季奈くんの白スリムポーション性能いいし、
 うちのギルドにもかなりの量回してもらってるしね」
「まぁ、琉風とは知り合いみたいだし…改めて紹介することもないよな」
「はい」
彩が琉風の方を向くと琉風がどこかうつむきがちに答える。
それを見ていた桜子がぽんと手を叩いた。
「そうだ。呂揮くん、琉風くんに家の中とか案内してあげなよ」
「俺がですか?」

「いじられ役同士仲良くするきっかけを与えてあげたんだよ。ありがとうは?」
「…ありがとうございますらこさん…」

首に巻きついている莉良の腕をほどき、桜子とのやりとりをきょとんとした
顔で見ている琉風の方を見て呂揮が手招きする。
「こっち来て。部屋案内するから」
「はい」
琉風が素直にそのあとをついていった。

「あの、呂揮さん」
呂揮に家の内部を軽く案内してもらい、自分の部屋となる一室に来た時、
琉風は呂揮の背中に向かって話しかける。
「呂揮でいいよ、敬語もいらない」
「えと…じゃあ呂揮、みんなはマスターじゃなくて彩マスって呼んでるの?」
「んー『マスター』って呼ぶのが普通なんだろうけど。澪マスのこと、知ってるよね」
琉風が黙ったままでこくんと頷く。
「ここのギルドメンバーほぼ全員が澪マスの所の攻城戦に参加してるんだ。
 俺らにとっては どっちもマスターだから名前付けて呼び分けてんの。
 澪マスのギルドは同盟関係で関わる機会多くなるし、
 琉風もその呼び方の方が分かりやすくていいと思う」
「うん、わかった」
「あとは…彩マス、ちょっと変な言動があるけどいざというときすごく頼りになるよ。でも相談事するなら
 親身になってかつ的確なアドバイスくれるらこさんの方がいいかもね。彩マス感情移入しやすいから
 内容によっては話聞いてる途中で泣きかねないから」
先ほどの彩の言動、行動を思い出して確かに…と琉風は心の中で呟いた。
「史乃、敬語とかさん付けされるの好きじゃないから呼び捨てしてタメ語で話した方が喜ぶよ。
 あと莉良は気が強そうに見えるけど本当はすごく寂しがりやなんだ。怖い夢とか見たりとか風の
 強い夜なんか誰かれ構わずベッドに潜り込んでくることあるからびっくりしないで。それと」
呂揮が一呼吸おいて黙って聞いている琉風のをまっすぐに見る。
「リィさんのこと。嫌わないで」
「………!」
「俺、全部は聞いてないけど。琉風がリィさんに対していい感情を持ってないって
 言うのはなんとなく分かる。でも俺も、他のメンバーもみんなリィさんのこと好きなんだ。
 どうこう俺が言える立場じゃないのも分かってるけど…」
「うん。分かってる呂揮。あいつが本当は悪い奴じゃないってことは…分かってるから」
「琉風…」

「おい、案内は終わったかーいじられーズ」
会話が途切れたタイミングでドア口から史乃が顔を出してくる。

「うっわ史乃、その名前のセンスだっせ」
「うるせーっての。ほら支度してこい、これから琉風の歓迎ギルド狩り行くってよ」
「分かった、場所は決まってる?」
「アユタヤ神殿」
「……決めたの彩マスだろ…」
「当たりー。俺のために矢の材料を心置きなく盗みまくれだとよ」
「仕方ないなぁ…闇特化カプラ倉庫だから取ってくる」
「おぅ、10秒で戻って来いよー」
「できるか馬鹿っ!」

呂揮が毒づきながら部屋を出て行き史乃と琉風の二人になる。
「琉風、神聖な糸巻きって持ってるか?」
琉風が首を振るとにゅっと史乃が手を伸ばしてくる。
「両手出せー」
言われるままに両手を差し出すとその上に収集品をぼとぼとと落としてくる。
「アユタヤに着いたらブンソムってじいさんにそれ渡して糸巻き作ってもらえ」
「あ、ありがとうございま…」
そこまで言って琉風が言葉を切る。

「ありがとう史乃」

言い直した琉風の言葉を一瞬きょとんとした顔で見たあと、屈託ない顔で笑う。
「どーいたしましてーっ」
嬉しそうにぐしゃぐしゃと琉風の頭を撫でた。


『ぶっぶっぶー。はい10秒経過ー呂揮失格なー』
『だから!10秒で戻って来れる訳ないだろ!馬鹿史乃ッ!!』
『呂揮が戻ってきたらギルド狩りの前に度胸試し行くぞ!神殿1Fテレポ移動で2F入り口に集合だ!!』
『彩マス待ってくださいよ!あそこにある落とし穴に落ちたらデスペナあるの分かってるんですか!?』
『もちろん知ってるし参加強制もしないぞ。その代わり参加しない人間はこれから1週間
 「きんぐおぶこっこちゃん」の職位で1週間過ごしてもらう!』
『そんな恥ずかしい職位止めてください!!明日フェイヨンで攻城戦合同会議入ってるのに
 そんな職位にされたら絶対みんなにネタにじゃないですか!』
『じゃあ参加すればいいじゃん。あたしは出るよぉ?』
『莉良…この職位ネタ考えたのお前か…?』
『あったりー♪』
『らこさんも何か言ってやって下さいよ!』
『呂揮くん、倉庫からテレポクリップ忘れずに出しておいでよ』
『……うー……琉風ーっ!黙ってないでなんとか言えーッッ!!お前の
 歓迎ギルド狩りがデスペナ祭りになるかもしれないんだぞ!!』
『あーあーあーあーーーー…』
『……………琉風??…』
『あっごめん。ギルドチャットって初めてでためしに声出してみたんだけど…呂揮、俺の声聞こえてる?』
『ぶッ……ぶはははははははははははははははッッ!!!このタイミングでマイクテスト
 ならぬギルチャテストかよ!不意打ちで腹よじれそうになったわー!!』
『くくっ…やめろってば琉風!俺今カプラ前なのに一人で笑って明らかに変な奴だろ!っつか史乃笑いすぎっ…くくくッ…』
『ひゃはははははッ真面目そうに見えたのに琉風って天然なの?それとも狙ってるの?』
『笑うな莉良っ…知らない誰かが通ったら変に思われっ…ッッ………!』
『もしこの家の中をものすごい不自然に知らない誰かが通ったとしても、普通に笑ってる
 莉良くんよりも手足ばたつかせて悶えてる彩の方を変な目で見ると思うけどな私は』
『あのらこさん…みんなものすごく笑ってるんですけど俺そんなに変なこと言いましたか…?』
『みんなポリンが歩いてるの見ただけで笑っちゃう人達だから気にしなくていいよ』
『えっそうなんでうすか!?』
『らこさん嘘教えた上煽るのやめてくださっ…カプラ倉庫周辺に人いるのにっ…
 琉風っ…頼むから俺戻るまで何もしゃべんなっ…くくくくっ…』

大爆笑に包まれたギルドチャットに琉風はきょとんとしつつ、
必死に笑いをこらえている史乃と共にリビングへと降りていった。

* * *

「くん…琉風くん」
軽く肩を揺さぶられて琉風が目を開いて視界に入ったのは桜子の顔。
「琉風くんよだれたれてるよ」
「えっあっ!」
慌てて口を拭うが手の甲に湿った感触はない。
「うそ。随分ぐっすり眠ってたね」
「ごっごめんなさいっ…!」
椅子に座ったままでうたた寝していたことを知る。
「莉良も寝ろって、風邪ひくぞ」
呂揮がテーブルの上に突っ伏している莉良の身体を揺する。
「…コト帰ってくるまで…待ってるー…」
「リィさん無事なの莉良だってちゃんと確認したろ?四季奈さんとの
 狩りが長引いてるだけでちゃんと帰ってくるって」
「でもやーだー…ここで待ってる…」
テーブルにしがみつくようにして言う莉良の声は眠気を隠し切れない。
「じゃあリィさん帰ってきたら起こしてやるからそれまで部屋で寝てろよ」
「…ん…………」
不満げな顔ではあったがやっと莉良が呂揮に腕を引かれて椅子から立ち上がる。
「らこさんちょっと莉良部屋に連れてくんで女性エリア入りますよ」
「わかった。莉良くんちゃんと起こすから寝ておいでよ」
「ほんとにほんとに起こしてねらこさん…」
「うん、大丈夫だよ」
桜子がひらひらと手を振って呂揮に連れられ廊下を歩いていく莉良を見送る。

「琉風ー」
その間に再びうたた寝をはじめてしまった琉風に、今度は斧の手入れを
していた史乃が頬をぶにっと引っ張って起こす。
「うひゃぁっひのっらりするっ」
起きて頬を引っ張られたまましゃべる琉風を見て史乃がおっもしれー顔ーと言ってくっくっと笑っている。
「らこに無防備なとこ見せんなよー何されっかわかんねーぞ?」
「もう琉風くんしかいないねきっと。他の人たちもう完全にガード固いし、彩はいじる前に起きちゃうし」
「あんなだっらしなく寝こけてんのにちょっかい出す前に絶対起きるんだよなー彩マスって」
居間のソファで足を投げ出して眠っている彩を見て史乃の口調は半分ほど感心している。
「琉風くんもう休んだら?新しいことたくさんで疲れてるだろうし。
 史乃くんにはほっぺ引っ張られるだろうし」
「はい……」
眠そうな目をこすりつつ琉風が立ち上がる。
「先に休みます。おやすみなさい」
「おやすみ琉風くん」
「おーお休みー腹出して寝るなよー」
桜子と史乃に見送られつつ階段をのぼり新たな自室となった部屋に向かった。

ぼふっ。

ベッドの上に仰向けに寝転がるとまとわりついた髪を指で軽く払う。
修道院以外に出来た自分が『帰る』ことの出来る場所。
初めての来た場所の筈なのに不思議と懐かしさを覚える。
「…………」
1階から感じる人の気配にどこか安心感を覚え、眠気に誘われるままに琉風は目を閉じた。

「う……」

どのくらい時間が経っただろうか。


妙なけだるさを覚えて琉風は目を開いた。
「そのまま寝ちゃって………!?」
起き上がり、自分の姿を見て言葉を失う。

はだけられた上着、膝までずり下ろされているズボン。
生々しく秘部に残っている異物感と射精した後に良く似た心地よさの残る倦怠感。

「あ……」
自分がどうしてこのような状況になっているのか分からず、
どこか他人事のように自分の姿を見たまま呆然としていた。

かたん。

ふと、となりの部屋で聞こえた物音。
自分の部屋になるこの場所を案内された時、呂揮は確かこう言っていた。


『隣はリィさんの部屋だよ』と。


「やッ……」
一気に様々な感情がこみ上げてきて、服の乱れを直すや否やばたばたと部屋を出て浴室へと走っていった。

服を脱ぎ捨て、頭から勢いよく冷たいシャワーをかぶって大きく深呼吸する。

一体あれはなんだったのだろうか。

理が部屋に来たのだろうか。それとも別の誰かが?
それとも無意識に自ら−。
「……!!」
考えを振り払うようにぶるぶると首を振る。

「おい」
すぐ後ろで声がして振り返るといつの間に入ってきたのか理が立っていた。
家の中のせいだろうか、胸までの黒のインナーと、同色の皮ズボンのみの軽装で琉風を見下ろしている。
琉風は反射的にシャワーカーテンで身体を隠して後ろに下がり、その隙間から理の顔を見上げた。
「夜中にバタバタうっせんだよ」
「…ごめん…」
「オレ相手に謝る辺り律儀というかいい子ちゃんだよなぁ」
「今度は静かに入るから…早く出てけよ…」
理の顔をまともに見ることが出来ずにカーテンを閉めようとした。
その手を止めて俯いている琉風の顔を上向かせる。
「やっ…!」
「お前さ・オレになんか言うことねぇの?」
「……なにをっ……」

「さっき部屋に来て何かシなかったか………とか」

「……なッ……」
背筋が凍るように冷たくなったのはシャワーのせいではなかった。
「やっぱりお前が…あ…ッ!!」
理が掴んだ手を引き琉風をバスタブから引きずり出すと、そのまま浴室の床に身体押さえつける。
「勝手に入ってあんなっ…あんなことッ…!」
「オレから言わせりゃベッドまでの進入を許しただけじゃなくこんなこと
 サれても気づかないお前の方がかなりヤバいんじゃね?」
その手が迷うことなく琉風の足の間を割り秘部に近づく。
「あっやだっ…やだぁ!」
琉風が抵抗するまもなく指を一気に突き入れられた。
「あ…ぁ……あぁぁぁっっ!」
「安心しろよ、モノまで突っ込んじゃいねぇよ。寝てるトコ
 突っ込んだって殆ど喘がねぇから面白くもなんともねぇしな」
「やっやだあぁッ…あッあぁぁぁッッ…」
「そんなに騒いで・誰か来てもいいのか?」
そう言われて琉風がきつく唇を結んで声を殺そうとする。
「まぁお前が、ケツ穴いじられてよがるスケベな男だって知られてもオレは全然構わねぇけどな」
「…………」
口を閉じたままで琉風はただ首を激しく横に振る。
「そりゃ嫌だよな」
「はぁんっ!」
入れられた指を捻られただけで声を出すまいと引き結んだ唇はあっさりほどけてしまう。
「どんなにギリギリまで突っ込んでも、指じゃお前の大好きな所までは届かないしな」
「やっやぁ…あっあぁっあぁぁぁッッ」
「指だけでそんなになるくらいオレが恋しかったのか?昨日あれだけイかせてやったのに」
勃起してしまった琉風自身を指先でつついてやりながらぐちゅぐちゅと湿った音を立てて
秘部に埋め込んだ指を掻き回す。
「あぁっちがっやぁっあぁっあッあぁッやぁぁぁぁッッ!」
「違わないだろ」
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」
そのまま自分を弄ぶと思っていた指は琉風から引き抜かれてしまった。
「続きシてほしかったらオレの部屋に来い。お前のココに
 欲しくて欲しくてたまらないのを咥えさせてやる」
琉風の足を抱えて大きく広げさせると、指でかき混ぜられてすっかり
敏感になってしまった琉風の秘部にちゅ…と唇を押し当ててひと舐めする。
「ひぁぁっ」
それからあっさりと琉風から離れ浴室を出て行ってしまった。
「…っ…」
理の姿が見えなくなると、バスタブに入りシャワーのコックを全開にひねって頭から勢いよく水をかぶる。
どんなに水を浴びせても、火照った身体は冷めなかった。

きっと自分でこの熱を冷ますことはもうできない。
冷める方法は、一つしか琉風にはもう思い浮かばなかった。


浴室から出た琉風は理の部屋の前に立っていた。
隙間から光が漏れているそのドアを小さくノックしてみる。
「入れよ」
いっそ眠っていてくれればいい。そんな琉風の願いも空しく返事が返ってきた。
ドアを開けると、理がベッドで吸いかけの煙草を灰皿に押し付けていた所だった。

「来い」
「………」

ドアを閉めたはいいものの、そこから足が動かない。
琉風がそのまま立ちすくんでいると、理がベッドから降りて琉風の方に近づいてきた。
両肘を琉風の頭を挟めるようにしてドアにつけ、耳元で囁く。
「抱いて・ベッドまで運んでホしいのか?」
「…ぁ…!」
琉風が返事をする前に理が琉風の身体を軽々と抱きかかえていた。
「思った割りに軽いよなお前。子犬抱いてるみてぇ」
「うるさいっ!…おろせ…んっ…!」
最後の言葉は理のキスで強制的に途切れさせられる。
「シてほしくてココに来たんだろうが…もう黙ってろ」
ほんの少し唇から離してそう言うと、再びキスをされる。
「んふっ…んっ…んぅ…んぁ…」
理の唇から解放されたのはベッドに下ろされてからだった。
「なんだ風呂場でヌかなかったのか」
「あぁぁっ」
きっちりはいてきたズボンの上から形をなぞるように琉風の足の間の熱を確かめる。
「どうせなら裸で来いよ。脱がす手間省けるし」
ずるっと一気に引き下ろすとためらいもなく立ち上がっているものを口に含む。
「やっだめッだめぇぇッッ!!」
「なんだよ。こうやってしゃぶられんのスキだろお前」
琉風に見せるように舐めてやると恥ずかしそうに腰を引いて逃げようとする。
「だっ…だめっ…舐めないで…舐めちゃやだ…っ」
「舐められるのがヤなんじゃなくて・最後に飲まれんのがヤなんだろお前」
「おねが…あんなの…飲まないで…」
「その顔。しゃぶって飲んでって頼んでるみてぇ」
逃げようとした琉風の足を掴んで自分のほうへ引きずると太腿に腕を回して抱え込む。
「あ…やぁ…………!!」
「逃げんなよ。逃げたら腰抱えて捕まえて全部飲ませるまで離さねぇからな」
「やだッ…逃げないから飲まないで…飲まないでッ…!」
「……そんなにヤならやめてやってもいいけどな」
琉風がどんなに懇願して抵抗しようとも行為を強要してきた理が気味が悪いくらいあっさりと中心から口を離した。
代わりに指が絡み、上下に強く扱かれる。
「んぁっ…あッ…!」
唾液で濡らされたそこは扱くたびにくちゅくちゅと湿った音を立てた。
「やめ…やぁ…」
「飲まれたくないんだろ?」
「だめ……このままじゃ…やぁぁ!」
理は琉風自身に触れるか触れないかの所まで顔を近づけたままだった。
琉風が何を言おうとしているのか分かったのか薄く笑ってみせる。
「あぁ、このままだと直撃だな・オレの顔に」
そう言いながらも理はそこから離れる様子もなく琉風自身を扱き続けている。
「やだっ…そんなっやぁぁぁっっ」
「じゃあ前みたいに一滴残らず飲み干して欲しいのか?」
張り詰めた琉風の先端にちゅ…とキスをする。
「だっだめっだめぇっ!!」
「じゃあ顔射決定・だな」
「…っ?…あッあっやっあぁぁっっ!だめだめっ…出る…出ちゃ…う…!」
「何度言わせんだよ。『出る』じゃなくて『イク』だろ?」
「…離して…!…このままじゃ…あぁっ…あぁぁぁッッ!」
「だったら我慢すればいんじゃね?まぁ・どーせできねぇだろうけど」
「…………っ…………!!!」
黙りこくってしまった琉風に口の端を上げて笑うと絶頂を促すように激しく指で扱いた。
「だめ!だめっだめっ!あっイくっあぁっだめだめやぁぁぁぁぁッッッ!!!」

琉風は絶頂の瞬間固く目を閉じた。
その目から涙が滲んでシーツに流れ落ちていく。
「あ…ァ…」
「あーあー・容赦ねぇな」
こわごわと瞳を開いて理の方を見ると、その顔は目を覆いたくなるくらい自分で放った精液にまみれていた。
「だからやだって…!」
「我慢できねぇお前も悪いんだろ?……舐めろ」
「…?」
「お前が汚したんだ・舐めて綺麗にしろ」

嫌だと言った琉風の言葉を聞かずに強要した結果の自業自得だと言いたい
気持ちはあったが、恥ずべきもので汚してしまった罪悪感もまたある。

素直に身を起こした理の方に顔を近づけ舌で自分の精液を掬い取る。
「苦…」
あの時と同じ苦い味が口の中に広がる。
頬や顎、額と唇や舌で丁寧に舐め取っていると、まるで理の顔中に自分がキスをしているような気持ちになる。
「わざとに避けてんのか?」
ココ。と言って理が親指を自分の唇に当てた。
「ん…」
琉風が理の唇についたままの精液を舌で少しだけ舐める。
「まだだろ」
「んぅぅっっ」
もう一度舐めようとするとその舌を覆うように理が唇を重ねてきた。
「んっあっ…ふぅ…んっんんっ…」
「…ヨクできました」
足を大きく開かされ、熱いものが琉風の秘部に押し付けらる。
「あ…あ…ふあぁぁぁッッ」
「つついただけでその声。オレにブチ込まれるのそんなに楽しみだったのか?」
耳元で囁かれ、ぴちゃ。とそのまま耳に舌を立てられる。
「あッだめ!あ…やぁぁッ」
「だめ、じゃなくて『入れて』だろ。美味そうに呑み込みやがって…」
内壁を押し広げてずぶずぶと理の雄が琉風の内部に入っていく。
「あっあぁぁぁぁぁッッ」
「ほら…これで全部だ」
「はぅぅッッ!」
じゅぷっと湿った音を立てて琉風の秘部に理の雄が根元まで埋め込まれる。
「突っ込まれただけで感じちまったか?もうおっ立てやがって」
琉風の中心を指先で下から上にかけて裏筋をすっと撫でる。
「あっああぁぁッ」
甘い声を上げる琉風の足を抱えると、琉風自身の膝が肩につくくらい深く折る。
「やァ…!」

視界に入ってくる自らの秘部に琉風は顔を逸らした。
理の雄を根元まで呑み込んでいる自分のものが酷く卑猥に見えて仕方が無い。
「目ぇ逸らすな。見ねぇと動かねぇぞ」
言ったとおり琉風が目を逸らしていと理は埋め込んだ雄を動かそうとしない。
琉風が意地になって顔を横に向けたままにしていると、理はずるずると雄を引き抜いていき、
入り口ぎりぎりまで抜いた所でくちゅくちゅと浅く突きはじめる。
「あ…ぁっ…くっ…んっ…ひっひあぁぁッッ!!!…ぁ…アっ…!」
散々入り口で焦らして何の前触れもなく奥まで突き入れたと思えばあっさりと引き抜いてしまい。
性行為を自分の身体に教え込ませた理相手に逆らってみた所で敵うわけもなかった。
「う…っ…」
焦らす動きに耐え切れなくなり根負けしたように顔を真っ赤にして涙ぐみながら
視線を戻すと、笑っている理の顔と見たくもない卑しく雄を咥えた自分の秘部が視界に入ってくる。
「…ほら、自分で足抱えろ」
「やぁぁっ!」
「今更ガタガタいってんじゃねぇよ。てめぇのケツ穴良く見えるようにがっぱり開け」
「うっ…やだっやだそんなの……!」
「さっきみてぇに焦らされんのがスキなのか?」

そう言われてしまうと琉風にはもう成すすべも無い。
「う…ぅっ…」
理が手を離すと同時に琉風は自分の足に腕を絡めて抱えるようにして自分から大きく足を開かせた。
「そうだ…そうやって咥え込んでる自分のケツ穴見てろ」
「うぅ…あっ…あぁっあっんぁぁッ………ッ…あぁぁ…ッ!」

きつく目を閉じたままでいたり顔を横に向けたりすると理は即座に動くのをやめてしまう。
視線を戻すと見計らったかのように奥を探り、突き動かす。
「うぅっやぁっ見ないでっやぁ…やぁっヤァァァッッ!!!」
自分から足を開かせて雄を受け入れる姿を見るのも見られるのも
恥ずかしくて、身体を揺さぶられながら涙を流して訴える。
「あの時はクスリのせいでそんな余裕なかったからな。今日はじっくり見てやるよ」
「あぁぁぁぁァァァッッ!!」
両手を双丘に添えられ、いっぱいに指で広げられた。
「やだぁぁぁッ!!広げないでっ見ないでやだぁぁぁッッ!!!」
「自分の見て。見られて感じまくってんのか」
「うっやっやっあぁっあっあッッ」
「ビクビクいって締め付けて…ほんとスケベな男だな」
「アァァァッッ!」
ぐりっと奥を探られ琉風の悲鳴が一層高くなる。
「あっあぁっそこっ…あんッッ」
SEXの度にしつこいくらいに突き上げられた琉風の弱い部分にぐりぐりと硬くなった理の雄が押し付けられた。
「ココ…突きまくられるのスキだろ」
「うっうぅぅ…」
嫌だともそうだとも言わずに琉風はただ悔しそうに呻いていると
選択の余地も与えないかのように理が追い討ちをかけてくる。
「答えねぇのか?」
聞かなくてもその先に続く言葉が分かってか琉風が首を振った。

「…………突い…てっ…」

「へぇ…んじゃ一回突くだけでいんだな?」
「やだやだっ…もっと…もっと…突きまくってっ………んぁっあっあっあぁッ…あん…んあぁぁぁぁぁッッッ!!!」
ベッドを激しく軋ませて理が琉風の中に雄が打ち付けられ、
あまりの刺激の強さに自分の中を押し開く理の雄を力任せに締め付ける。
「そうだもっと締めつけろ。よーくナカが擦れるようにな…」
「あうぅッあぅぅッあうぅぅぅんッあッあぁぁッあァァァァァァッッッ!!!」
理にとってはさらなる快楽を与えただけのようで、それをさらに貪ろうと
琉風の締め付けにも構わず大きく揺さぶり出し入れを繰り返す。
「うぅっなか…あッあぁッ…こすれてッ…ふあぁんッんぁぁッ…あぁッ」
「ソレがイイんだろ?」
「いいっ気持ちいいッ気持ちいいよぉ…もっとっ…もっとぉ…く…ぅんッ…あ…あァッあぁぁッあぁッ」

これが自分の声かと疑いたくなるくらい甘えたような声。

じゅぷじゅぷと卑猥な音を立てて自分の秘部から出し入れされる理の雄を見ながら内部を擦られる快楽に酔う。
「あぁッでッ…いっイくッイく…あぁぁぁイクうぅぅッッ!」
「自分でイくとこ、よーく見とけ…?」
「あぁッやッあぁぁッあぁぁッッイくぅ…!…ア…ア…アァァァ…………!!!」
自分の中心から吐き出されて腹や胸に飛び散っていく白い雫を見ながら放たれるものを身体の中で受け止める。
「はぁ…はぁ…あぁッ…う…うぅッ…」
琉風が足を抱えていた腕を解き理の身体に手を当てると突っ張って離させようとする。
「も…やぁ………」
「全力で引き止めてるみてぇにケツ穴締め付けてる奴が何言ってんだ?」
「やぁっはぁあぁぁんッ!」
理が引き抜かないままで動かすと身体を震わせて理にすがりつく。
「続けてほしいんだろ?」

「やぁ…やぁッ…俺ばっかり…ずるい…!…」
拳を作って理の胸を力なく叩く。
「いつも平然として…恥ずかしいことさせて…俺だけ…『コレ』…欲し…がって…!ずるいっ…ずるいっ…!」
「ズルイのはどっちだよ」
自分の胸を叩く琉風の手を引いて抱きしめると、少しだけ腰を
引いたあとぐいっと強く雄を内部に押し付けてくる。
「はぁぁんっっ!」
「お前のナカに入ってるコレ。熱くて硬くなってんの・分かんだろ?」
「あぁっあっあぅぅんッ」
断続的に弱い部分を突かれ、ゆっくりとした動きなのにも関わらず琉風は腰をくねらせる。
理の言ったとおり、内部を擦るそれはまた熱を帯びていた。
「こんな風にシたの誰だと思ってんだ?ブチ込みたくてたまらなくサせてるの・誰だと思ってんだよ」
「あふぅんっあッあッあッあぁぁぁッッ」

「お前だろ?琉風」

「あッ………誰でもっ…いいんだろ……あの時だって……俺じゃなくてもっ……んッッッ!!」
やっと動きが緩くなり切れ切れになりながらもなんとか言い返すと最奥に雄を埋めたままで理がにやりと笑う。
「あぁそうだ。SEXサせてくれんなら別にお前じゃなくたっていんだよオレは」
「……………!!!」
泣きそうな顔で何かを言い返そうとした琉風の唇を理が自分の唇で塞ぐ。
「んっんっ……ふぁ…ことわ…んぅっ……」
琉風に言葉を発する暇も与えず頭の後ろに手を回して今度は深く。
「んふぅっんっんっうぅんっっっ……あ…ぁ…」
「前はそう・思ってた」
唇を離し、今度は指を当ててそれをなぞる。

「今はお前以外の誰ともシねぇしシたくもねぇ」

「……!?」
目を見開き驚いた表情で見る琉風の顔を覆うようにもう一度キスをしたあと、強く抱きしめる。
「…理っ…」
「もう言わね」
遮るように言うと理が動きを再開した。
「あぁっあっあぁぁっおっ…俺っ……俺もぉ…」
揺すられながら琉風が必死に言葉を紡ぐ。
「キスも…『コレ』も…他の人となんてやだ…理…理…あぅ…んっ」
背中に腕を回され理の身体に包み込まれると、琉風もまた理の広い背中に自分の腕を回してすがりつく。
「そのスケベなケツ穴でよーく覚えておけ。お前が咥えてイイのはコレだけだ」
琉風にその感触をじっくりと確かめさせるかのようにゆっくりと動かしてやる。
「ふぁっあッふあぁぁんッ」
「他の男の味なんてもう知らなくていい・お前はオレのモノだけ呑み込んでればいんだよ…」
「しないっ…しない…理じゃなきゃ…やだッ……理がいいっ…理…理…」
「……琉風…」
「んあッ…ふぁ…んあァァァァァァッッッ!!!」
掠れたような声で自分の名前を呼ばれたかと思うと、これ以上は無いという奥の奥まで雄を突き込んでくる。
「あぁッんくぅッふあぁッあッあッあぁッあぁんッ」
「琉風…琉風…琉風…る…かッ……」
理の低い声を耳元で聞きながら琉風もまた理の名前を呼び続ける。
「ふあぁッあっあぁッことわりッことわ…りぃッ…あぁぁッ理っ…はあッあぁぁッッ…理…理ッ…アァッあぁぁぁぁッッ……!!」

意識が途切れるまで、ずっと。

* * *

「…あふ…………はよー」
欠伸をしながら史乃がリビングに入ると、桜子が台所に立って炒め物をしていた。
「おはよう史乃くん。さっそくだけどちょっと頼まれて」
「んー?」
テーブルに置かれているサラダのトマトをつまみ食いしている史乃に向って桜子が背中を向けたまま言う。
「香辛料買ってきてくれないかな。切らしてるの忘れてて」
「分かった。香辛料だったらルティエかー…らこ、時計ポタ消したんだよなー確か」
「うん、昨日上書きしちゃったから。でも確か琉風くん持ってた筈だよ」
「琉風かー」
史乃が少しだけ困ったような表情をしたが、背中を向けている桜子は気づいていない。
「もうそろそろごはんだし、起こすついでにお願いしてもらったら…って。どうしたの史乃くん、むずかしい顔して」
後ろを振り返り、ようやく桜子が史乃の表情に気づく。
「それなんだけどならこ。ちょい、耳貸せ」
「なに?」
素直に桜子が史乃の方に顔を寄せるとそっと史乃が何かを耳打ちする。
「…………史乃くん。続きよろしく」
「あ?」
調理中だったフライパンを史乃に預けると自分に速度増加をかけて走り去っていく。
数秒もたたないうちに戻ってきた桜子の手には小さなカメラが握られていた。
「らこ?そんなもん持ち出してどーすんだよ」
「ナニを撮るために決まってるじゃない」
淡々と答え、ポカンとしている史乃の前を走り抜けていった。


「リィくん起きてるよね。入るよ」
「あぁ」
桜子がドアを開けるとベッドの上で半身を起こした理が、煙草を吸っていた。
その隣には琉風が理に擦り寄るようにしてすやすやと寝息を立てている。
「史乃から聞いたんだろ」
「うん。琉風くんの部屋に最初行ったらしいんだけどいなくてリィくんとこ行ったら一緒に寝てたって」
理に返事をしながらベッドのそばまで来て屈む。
「琉風くんって今裸?」
「あぁ」
「どの辺くらいまでなら許せる?」
「別にらこなら全部許せるけどな」
理が布団を捲り上げて無防備に眠ったままの琉風の全裸を晒す。

「きゃーりぃくんのえっちーさくらこはずかしー」
「棒読みだぞらこ。役者には向かねぇな」
「うんわかってる。なる気もないから」

琉風の全裸を前にして桜子は顔を覆って恥ずかしがる仕草どころか照れた様子すら微塵も見せない。
その代わりに大きなため息をひとつついた。
「リィくんきみね、全く乙女心がわかってない。こんな全開だったらありがたみがなくなっちゃうよ」
「男のオレが言うのもなんだけどな・らこの乙女心ってどっかズレてねぇ?」
「今更何言ってるの。んー…この辺くらいまでがいいかな」
そういって布団を琉風の鎖骨の少し下辺りまで戻す。
「ほんと好きだなお前そーゆーの」
「頼まれるんだから仕方ないじゃない。気づいてないだろうけどうちのギルドの男の人たちって
 私の友達とか澪のギルドの女の子とかに人気あるんだよ。昨日チュンリム明亭で琉風くんのこと
 見た子がいて秘蔵っぽい写真ほしいって言われたの」
眠り続ける琉風の寝姿をカメラに数枚おさめる。
「秘蔵っつんならみみっちぃことしねぇでがばーっと行きゃいいだろ・がばーっと」
理が桜子が戻した布団をめくり上げて琉風の肌を露にさせる。
「私はいいけど他の人たちには刺激が強すぎるんだよ。前にリィくんの上半身裸の写真見せた時
 なんて澪の所の四季奈くん、ハキャァァァーとかおかしな声上げながら砦の中走り回ってたから」
桜子がそう言いながらめくり上げた布団を今度は丁寧に首の所まで琉風にかけてやる。
「そろそろごはんだから下降りて来てね」

「らこ」
立ち上がって部屋を出ようとした桜子を理が呼び止める。
「何?」
「なぁ・キスシて」
「うん」
嫌な顔一つせずにあっさりと応じ、桜子がまたベッドに近づいていくと少し身体を屈めて理の額に唇で触れた。

「これでいい?」
「何でココなんだよ」
「じゃあ頬にする?瞼がいい?それとも鼻の頭?あ、手の甲とか足先とかはやめてね。そういう趣味ないから」
「そうじゃねぇって。唇避けてんの・わざとか?」
「わざとに避けてあげたんだよ。ありがとうは?」
「アリガトウ。で・理由は?」
「唇はね、すごくすごく大好きな人としかしないものなの………とでも言って欲しい?」

額に手をあてたまま自分を見る理に桜子は小さく笑う。
「残念だけど私はそんなこと言わないよ。優しくないから」
「乙女心は激しくズレてっけどやっぱいい女だなお前」
「ありがとう。でも私のこと褒めても今日の朝ごはんのベーコンが一枚多くおまけでつくだけだよ」
セピアの髪に絡めてくる理の指をかわして立ち上がる。
「それはここではかなり重要問題…………」
途中で理が言葉を止め、無言で桜子の髪に触れていた指をドア口に向ってさす。
桜子がその指さす方を見ると、ドアノブに手をかけた状態で硬直している彩の姿があった。

「あ、彩おはよう。もうすぐごはんだよ」
彩の様子など気にすることなく桜子がごく普通に話しかける。
「あぁおはよう…って!そうじゃない!どういうことだらこっ!!!」
「おまけのベーコンの話?そこはなんとか黙っといてくれないかなぁ。バレるといろいろまずいし」
「そうじゃないっ!!なんでらこがここにいるんだ!異性エリアに入るときは、
 女の方のエリアはらこ、男の方のエリアに入るときは俺の許可をもらうっていうのがギルドのルールだろうが!」
「あ、ごめんそうだったね、入ってるから。これでいい?」
「報告が遅すぎだろぉっ!しかもっなんで琉風がここに…ってかはっはだっはだ…」
「裸だけど?」
どもっている彩に向って理が三度布団をめくり上げて琉風の全裸を見せてやる。
「うわああぁぁわざわざめくらなくていいッ!!!…リィッ…リィまで裸じゃないかっ…」
布団がめくれた拍子に除いた理の素肌に気づいたらしく、そりゃなぁと理が呟く。
「着るのも着せんのも面倒だったしそのまま寝たからな」
「おっ…おおおおお前らっ二人で裸になってベッドでなにっなにしてッ…」
彩の問いに極上の笑みを浮かべて理が答える。

「ナニって・SEX」

「うわぁぁぁああああこいつはっきり言い切りやがったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「もうその辺にしといたらリィくん。琉風くん風邪引くよ」
叫ぶ彩のことなど気にせずに桜子がせっせと布団を元に戻している。
「そんなあっさりSEXとか口走って知らない人が通りすがって聞いてたらどうするつもりだぁぁぁぁ!!!」

「大丈夫だって彩マス。そんな都合よーく知らない人は通りすがらないから」
いつのまにか来ていた史乃が彩の肩をぽんぽんと叩く。
「あ、ごめん史乃くん。琉風くん起きないからカプラサービスの転送使ってくれる?
 ついでに彩も連れてって、うるさいから」
「はいはーい。彩マスは俺と一緒にルティエに買物行こーか」
「待てらこっ!うるさいってなんだ!」
「ほらほら行くぞー雪降ってひんやりしてルティエ気持ちぃーぞー」
「まてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ話は終わってないぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そのままずるずると彩が史乃に引っ張られるようにして部屋を出て行く。
「さて、私も行こうかな。史乃くんと彩が戻ってきたらみんなでごはん一緒に食べよう」
「ん」
理の生返事を聞いた後桜子も部屋を出て行きしんと部屋の中が静まり返る。

「…琉風」
理が名前を呼ぶと布団から半分ほど出た頭がぴくりと動く。
「起きてんだろ?」
「ひゃぁっ!!」
布団に手を入れて琉風のわき腹をくすぐってやるとびくっと身体を震わせて琉風が飛び起きる。
「瞼ぴくぴく動いてたぞ。らこと同じで役者には向かねぇな」
「なっ…知ってて何度も布団めくってたのかよ!」
「だったら寝たフリ続けてねぇで起きて抵抗なり何なりすれば良かったんじゃねぇの?」
「……俺起きたら彩マスますます混乱しそうだったし……
 それにお前がSEXとか言うから目開けるに開けれなかったんだろ!」
「事実だろうが。それにあんな日常茶飯事にいちいち気ぃ使ってたら身が持たねぇぞ?」
「俺朝どんな風に彩マスたちと顔合わせたらいいんだよ…」
「別に普通にしてればいんじゃねぇの」
顔を紅くして布団に顔を埋めている琉風に構うことなく理がベッドから出ようとする。
「…あ…」
「何だよ」
顔を上げて何かを言いかけた琉風の方を振り返る。
「…えと…」
「なんだ、まだシ足りねぇのか?」
「ちがっ…そうじゃなくて…!!」
最後には目を合わせられず下を向いたままで小さな声で言う。

「キス…して」

「……」
理の手が琉風の顎に絡み、ゆっくりと上向かせられる。
真っ赤にしている琉風の顔に理の顔が近づき、迷いもせずに琉風の唇に自分の唇を重ねる。
舌を絡められた訳でもないのに全身がゾクリとして布団を掴む力が強くなる。
「ん…ぁっ…」
「お前はまだ寝てることになってんだから・もうしばらく部屋にいろ」
唇を離すとそういい残して理は部屋から出て行く。
「……………」
いまだ冷めない顔の火照りを隠すようにすっぽりと布団をかぶり、まだ唇の感触が残っている唇に指を当てる。
「理…こと…わり…」
昨晩何度も呼んだ名前を口にし目を閉じた。


それが溢れそうな感情を押さええるための呪文かのように。





 

 

 

 



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