触らないで。離さないで。
修行のばかりの毎日の中でほんのわずかに許された自分だけの時間。
どんなにくたくたになっていてもその時間が来れば不思議と元気になった。
玩具や遊び道具などはなかったので、仲間でもある友と一緒に遊びを探す。
色んな遊びをしてきたが、かくれんぼで遊んだ時だけやけにつまらなかったことを今でも覚えている。
隠れて待っていても、なかなか見つけてもらえずに自分から見つけられに行ってばかりだったからだ。
「だって琉風、わかんない所ばっかりに隠れてるんだもん。見つけられないよ」
(別にそんな難しい所に隠れているつもりなんてないのに)
その時と同じことを、今もまた琉風は心の中で呟く。
「いたか?」
「いや、確かにこの辺りに逃げたはずなんだが…」
琉風は視界を遮っている木の葉を少しだけ指でどけて下を見下ろすと、
三人の男が周辺をキョロキョロと見回している。
すぐ目の前の大樹にまさに標的である琉風が潜んでいることにまるで気づいていない。
狩場で追われ、ワープポータルの逃げた先のフェイヨンの町でまた別な人間に追いかけられる。
職業も追いかけてくる人間もバラバラだったが、唯一共通していることが
『同じエンブレムをつけている』ということ。
3日前のアインブロックに拉致されて以来、そのギルドメンバーに琉風は追われる生活を強いられていた。
幸い捕まらずに今まで逃げおおせてきたものの、蜘蛛の糸のように張り巡らされている追跡者に、
今では修練を兼ねての狩りすらままならない状況になっていた。
「その辺にいるのは分かってるんだ!大人しく出てこい!」
もちろん大人しく出て行くつもりなどないので、自分の身体以上の太さのある大樹の枝に身を預け、
三人がいなくなるのをこのままじっと待つつもりだった。
「!」
男の一人が取り出したものを見て琉風が身を乗り出す。
手に握られていたのは小さな枝。
「古木の枝。これが何だがわかるよな?この先の民家でこれを折ったらどうなるかも…わかるよな?」
折るとモンスターを吹き寄せる不思議な枝。弱いものが出てくるときもあれば強いものが出てくるときも有る。
後者が民家で出たとなれば大惨事になるだろう。相手が戦闘手段を持たない一般人であればなおさらに。
「5秒待ってやる。その間に…」
「いいよ今折っちゃっても」
「!?」
琉風が考えていたことと全く正反対の言葉が聞こえてくる。
声の主を探すと、琉風のいる大樹から少し離れた所に、伸びた髪を
一つに結い上げミニグラスをかけた一人の教授が立っていた。
琉風は姿を見せようと身を乗り出しかけていたが、
自分を追っていた3人の反応に少しだけ様子を窺うことにする。
教授の方を見て何か慌てたようにコソコソと耳打ちをしているのだ。
まるで都合の悪い人間に会ったかのような様子で。
「あれ・折らないの?じゃあ」
懐から教授が取り出して見せたのは1本の古木の枝だった。
「俺から折るよ?」
ぺきん。
相手の返事を待たずに手の枝を強く握ると枝は簡単に折れた。
2本分かれて落ちた枝はみるみる姿を変えて途方もなく大きくなっていく。
「ブラッディナイト…」
召喚されたモンスターの名を思わず琉風は口に出していた。
名前は聞いたことはあるものの、実際に見るのは初めてだった。
「おぉー結構いいの出たかな?俺折るとなんでかいっつもポリンとか
ピッキとか可愛いのばっかりだったんだよね〜君らに運を分けてもらったのかな?」
巨大なモンスターを目の前にして真っ青になっている3人に
対し教授のおっとりした口調はまるで変わらない。
「お礼に、君らにあげるよ」
教授の姿が急に消えた。ブラッディナイトが振り下ろした剣は地面を深くえぐる。
「おい…どうする?」
「一時撤退だ。どちらにしても俺らの構成じゃ部が悪すぎる」
「うわっこっち来たぞ!!」
標的を失ったブラッディナイトは傍にいた3人を新たな標的としたらしく
唸り声を上げて地面を揺るがせながら近づいていく。
蝶の羽のかけらがはらはらと落ち、ブラッディナイトが近づく前にその3人は姿を消した。
新たな標的すらも見失い、ブラッディナイトは次の獲物を探しているようだった。
「倒さなきゃ…」
初めて合間見える敵に対してどこまで渡り合えるか琉風自身正直分からなかった。
でも自分がここで食い止めなければならない。この先にある民家の存在にブラッディナイトが気づく前に。
「ハイディング解除。と」
「うわっ!!」
乗りあがっていた枝から飛び降り琉風が着地した目の前に、消えたはずの教授がいきなり
姿を現したので琉風は声を上げて一歩引いた。
「ん?あぁ、さっきの会話からして近くに誰かいるとは思ってたけどひょっとして木の上にいたの?
気配とか消してたりした?こんなに傍にいたのに全然分からなかったよ」
琉風の方を振り返った教授が相変わらずおっとりとした口調、しかも笑顔で話しかけてくる。
その背後にはブラッディナイトが既に迫ってきていて琉風が叫んだ。
「後ろっ…!」
『ファイアーウォール!!』
炎の壁が教授の背後に立ち上りブラッディナイトの進行を妨げる。
「いやねーあいつら追い返すくらいの迫力あるモンスターが出てくれればいいかなって
思ったんだけど俺枝運いいのか悪いのか、かわいいのしか出せなくてね〜一応20本くらい
枝用意してたんだけど一発で出てきてくれてさ。ほんとこんなのめったにないんだよね〜」
おおよそ自分に剣を向け襲い掛からんとする巨大なモンスターを
背後にしてのんびりと会話する場合ではないのでは…。
少なくとも琉風はそう思った。
「ところで君」
「は、はい」
「阿修羅なんか習得してたりしてないかな?」
「えーと…持ってます」
「俺がやると時間かかりそうだから、できれば倒してくれるとありがたいんだけどな」
「わかりました」
このまま野放しにするわけにはいかないと爆裂波動を発動させる。
『阿修羅覇凰拳!!』
ドンッ…!!
確かな手ごたえはあったものの殲滅までには至らなかった。ブラッディナイトは苦しげに大きく
身体をのけぞらせ、自らを傷つけられた怒りからか地に響くような声で咆哮している。
「んー惜しいな。次一発いれればとどめさせるかな?」
「撃ちたいのは…山々なんですけど…」
「あーそうか、すぐには撃てないんだったね」
教授の方はこちらの事情を理解しているようだった。
「大丈夫だよ。すぐ撃てるようになるから」
「え?」
意味が分からない琉風に向って教授は手を上げ琉風の方に向けた。
『ソウルチェンジ!!』
教授の手から発した光が琉風を包み、失った精神力がみるみる回復していくのが分かった。
「もう、撃てるよね?」
「はい…!」
ズゥゥゥンッ………
2発目の阿修羅覇凰拳にはさすがにブラッディナイトも
耐え切れなかったようで、その巨体は地面へと沈んだ。
「助かったよありがとう。やっぱり阿修羅は強いね」
「あの、すみませんでした」
「ん?どうして謝るの?むしろ殲滅を君に押し付けちゃった俺が謝るところだと思うんだけど」
うつむいて詫びる琉風に対し首を傾げる。
「さっきの3人組俺のこと狙ってたんです。貴方に迷惑かけてしまって…」
「え?そうだったの?君みたとこギルド未所属みたいだけど攻城戦ギルドのあいつらに恨み買われるって一体何を…」
そこまで言って教授の言葉が途切れる。
「銀髪…ライトグリーン…」
呟きながら穴が本当にあくのではないかと思うくらい見つめられて琉風がたじろぐ。
「あ…あの…」
「どうやら本当に詫びなければいけないのはこちらの方みたいだ」
「??」
その上意味不明なことを言われてますます琉風は困惑する。
「あー自己紹介がまだだった。俺は澪、攻城戦ギルドのマスターをやってる。『理』が君に迷惑をかけたようだね」
「…!」
理の名前を聞いて琉風は警戒心を露にした。
「君と話がしたいと思っていたんだ。それとも、こちらの話には耳を貸したくない?」
「……いえ……」
「ありがとう」
そう言って笑った澪の表情に悪印象はなかった。
「じゃあワープポータルを持っていたらお願いできるかな。君の好きな所で構わない」
「わかりました」
差し出されたブルージェムストーンを素直に受け取るとワープポータルを出現させた。
* * *
「そうだ。よかったら君の名前、教えてくれないかな」
たどり着いたアルデバランの一角にあるベンチに腰掛けた澪の言葉に、
まだ自分が名乗っていなかったことを思い出しつつその隣に促されるままに腰掛けた。
「琉風です」
「琉風。理は、まぁ俺はリィって呼んでるんだけどね……リィは攻城戦の時にのみうちの
ギルドに所属するいわゆる傭兵の立場でね。対人戦の経験の豊富さと機動力の良さとで結構頼りに
してたんだけど。3日前の攻城戦の時に急に理由も告げずに突然持ち場を離れたんだよ」
3日前。琉風が拉致された日と同日だ。
「理由を問うたんだけどだんまりでね。独自で調べさせてもらったらアインブロックに行っていたこと、
さらに調べてみたら琉風が今日追われてたっていうギルドの人間も関わっていることも分かった」
琉風は下を向いたまま動かない。
「リィが立ち寄ったっていう建物の中も調べたんだけど…誰かが強姦されたような形跡が見つかってね。
それを見て確信したよ。リィはそこで強姦されたその『誰か』を助けようとして攻城戦を抜けたんだってね」
「………」
「ホテルに銀髪でライトグリーンの瞳をした裸同然の子をリィが連れてきたっていう情報と合わせると、
その建物で強姦された人間とリィがホテルにつれて来たっていう人間は同一人物。そしてその『誰か』が……」
「俺です」
澪が言う前に琉風は視線を下に落としたまま自ら明かした。
「さっきのギルドの奴らに俺捕まったんです。自分たちも攻城戦をやるから理を戦力として
欲しいって言ってました。それであいつと何回か会ったことある俺のこと捕まえて……」
そこまで言って琉風は言葉を詰まらせる。
「結果ギルド抗争に無関係である琉風を巻き込んで傷つけてしまった。
許されることではないけれど、詫びたいとずっと思っていたよ」
「それは違います」
それを聞いた琉風が顔を上げ、きっぱりと首を横に振って否定した。
「ああなったのは俺が単純に弱かったからです。貴方が謝る必要なんて何もありません」
澪の手が伸びふわりと琉風の頭を撫でる。何度も撫でるその様は
明らかに子ども扱いだったが、不思議と嫌な感じはしなかった。
「ありがとう。琉風は優しいね」
『どこほっつき歩いてんだバカマス』
「?」
不自然に止まって急に動かなくなった澪を琉風が不思議そうに見上げた。
「…澪…さん…?」
「あーごめんね。緊急のwisが来ちゃって。ちょっとだけ待ってくれるかな?」
「はい」
『何の用かな?空気読めないリィちゃんよ。むしろ謀ったか?』
『別にオレは用なんてねぇし謀ってもいねぇよ』
『用もないのに話しかけてくるなんてさびしんぼさんだなぁリィは』
『ギルド狩り行くって言い出した当の本人であるあんたが話かけても全く反応なくなったから
どうにかしてくれってあんたのギルメンに泣きつかれたんだよ』
『いやーギルドチャットでも俺の名前乱舞してるよ。大人気のマスターで困っちゃうね〜』
『…あんたのあの自慢の大百科事典で「大人気」の意味今すぐ調べた方がいんじゃね?』
『さびしんぼな上に機嫌が悪いなリィ。あぁ分かった。攻城戦でもないのに呂揮と莉良がうちの
ギルドに来てるのが気に入らないとか?うちのギルド狩りに行きたい、ギルドスキルの恩恵も
受けたいからどうしてもって入れて欲しいって言われてねー』
『その莉良に、あんたが来るまでの人質だとか訳わかんないこと
言って首からぶら下がって離れねーんだよ・なんとかしろ』
『まぁまぁまぁ。本当にギルド狩りには行くつもりだったんだよ?でも急遽姫と
デートすることになっちゃってねーこれを逃すと次はいつになるか…』
『誰だよその姫って。っつかあんたそーゆー趣味だったか?』
『「琉風」っていうんだ、またこれが可愛い姫でね』
『…………澪マス、それルール違反じゃね?』
『そう怒るなリィ。確かに雇い主と傭兵という間柄とういうだけでそれ以外は一切関与はしないって
約束にはなってる。でも今回は間接的にしろうちのギルドに関わったがために傷ついた人間がいるんだ。
マスターとして放置という訳にはいかないだろ』
『余計なこと吹き込んでんじゃねーだろうな』
『そんなに心配なら来るかい?俺は構わないよ』
『あんたがこ』
『………………リィ?』
『……………』
律儀に会話が終わるのを待ち続ける琉風に『もう少し待って』と言うように片手を
少しだけ上げると澪はギルドチャットに会話を切り替えた。
『待機組ー何か変わったことなかったか?』
『澪マス…コトが…コトが…!!』
『莉良?』
『あたし庇って…どうしよう…どこにもいないの…コトがどこにもいないの!!』
『呂揮、いるね』
『はい。莉良と一緒です』
『状況説明できるかい』
『プロンテラの西出口で待機してたらそばにいた人間がいきなり古木の枝を大量に折ったんです。
召喚されたモンスターのほとんどが莉良のことタゲっててリィさんがそれ庇って…』
『タゲを全部奪ったと』
『そのあと召喚されたモンスターに押しつぶされるようにリィさんの姿見えなくなっちゃって…
量が多すぎて南の方に今退避してます。今この場にいるのは俺と莉良だけです』
『その後リィの姿は?』
『見えなくなった後すぐにモンスターが散り散りになったんですけどリィさんはその場所にはいませんでした』
『それで…枝折った奴なんだけど。ひょっとして「あいつ」のいる
ギルドのエンブレムなんかつけてなかったかい?』
『つけてました……すみません追えなくて。逃げていったのわかってたのに…』
『確認できただけで十分だ。テロは規模的に大きいのかな』
『それほど大物は出てなかったんですけど数がとにかく多いです』
『分かった。そこにいないメンバーには俺が連絡しておくから
呂揮は近くにいるメンバーと合流して鎮圧してくれ』
『わかりました』
『頼むよ。俺はちょっと「あいつ」にご挨拶にいってくる』
『…じゃあ俺もいきます!』
『だーめ、呂揮はみんなと一緒に町のテロを鎮めて。俺は大丈夫だから』
『絶対に…無茶しないで下さいよ』
『わかってるよ。莉良、俺の声聞こえるか?』
『聞こえる…』
『リィはちゃんと見つかるよ。枝テロで普通に倒れる男じゃないんだから』
『うん…』
『俺はこれからいなくなったリィを迎えに行ってくるから。
莉良は呂揮達と一緒にモンスターを一掃してくれ。出来るか?』
『できる』
『いい子だ。頼んだよ』
「あの…急用なら優先しちゃって構いませんよ?」
かなり長い間会話を続けている澪にさすがに心配になってきたのか琉風がついに口を開いた。
「あぁごめん。今終わったところだよ」
「大丈夫なんですか?」
「んー大丈夫ではないかな?首都のテロに乗じてリィが行方不明になったらしいから」
「!」
それを聞いた琉風の表情が険しくなる。
「テロ自体はうちのギルドメンバーやその場にいる戦闘要員が総動員で鎮圧に当たるからそれはじき治まるだろう。
ただほとんどがそっちの方に行かせてしまっていてリィを捜索する人員が不足しててね」
「俺で良ければ行きます」
間髪居れずに琉風は返事をしていた。
「即答だねー…確かに来てくれるとすごくうれしいけど。今回の件は
琉風を追いかけていた例のギルドが絡んでるんだよ?」
射抜くような澪の瞳に琉風の言葉が切れる。
「行けばまた同じ目に遭うかもしれない。それでも?」
「………」
何かを考えるかのようにほんの少しだけ目を伏せると、それからまっすぐに澪を見据えた。
「それでも行きます。助けたいんです」
それを聞いていた澪の表情が優しく柔らかくなり、琉風の身体をそっと抱きしめた。
「…あ…あの…」
「意地悪言って悪かった。ありがとう、琉風は本当に優しいね」
戸惑いながらも慈しむような優しい抱擁に琉風はその身を委ねていた。
「さて…そうと決まれば早速出かけたいところなんだけどね。情報があまりにも少なすぎて場所を絞れないんだよ」
「はい」
「でね。ちょっと俺は他のメンバーにも指示出すから、琉風は直接リィにwisしてくれるかい?」
「えぇっ!?」
「…琉風。もしかしてwisしたことない?」
「いえ…ありますけど…」
「じゃあお願いするよ。返事がなくても、何度も呼びかけてみて」
「わかりました、やってみます…」
「頼んだよ」
wisの経験はある。ただ理に対してのwisは全くの初めての上、仮にも相手は琉風の中では
助けようとしている人間とは言え大の苦手とする男である。
しかし、今はうだうだと迷っている場合ではない。
何か指示を出しているらしい澪の横で10秒程葛藤したあと、意を決して理にwisを飛ばした。
『おい』
反応はない。しかし向こうには確かに伝わってはいるようだ。
『おいってば!返事しろよ!』
『…聞こえてねえ』
ぶっきらぼうなで小さな声だったが、弱っているという様子ではない。
『なんだよ聞こえてんだろ!?今何処に居るんだよ』
『お前には関係ない所』
『澪さんから大体の事情は聞いてる』
『あんの馬鹿マス余計な事言いやがって…』
『何処にいるんだよ。澪さんが情報が少なすぎてあんたの場所が絞れないって
言ってるんだ。今居る場所の特徴とか教えて欲しい』
『知るか。知ってたとしてもお前には絶対教えねぇ』
『言わなきゃ助けに行けないだろ!』
『だったら助けに来なきゃいいだけの話だ』
wisが途切れた。
向こうから強制的に遮断してきたらしい。
「どう、通じた?」
メンバーに指示を出し終えた澪が曇りがちな表情をしている琉風に問いかける。
「通じたんですけど、来るなって言って強制的にwis切られました」
「つい今しがたその噂の理さんから馬鹿とか阿呆とか愛のこもったwisが来たよ。
教えてくれた建物の特徴からすると龍之城っぽいね」
「あいつが嫌だっていっても俺行きますよ…」
「リィのそばに「あいつ」が…ハイウィザードがいるって言ってたよ。テロの黒幕も自分だってあっさり認めたらしい」
「ハイウィザード…」
「多分アインブロックで君も会ったことあると思う」
「あいつが…ですか」
忘れもしない。慣らしもせずに強引に突き入れられ、
引き裂かれた痛みに泣き叫ぶ琉風をさも楽しげに見ていたあの男。
「琉風が強いられたことを考えれば、確かに心配で来るなって言うかもなぁ」
「心配なんてされてないです」
「攻城戦投げて助けようとしたんだよ?そう考えるのが自然だと思うけど」
「違います!…でも…俺絶対行きますから」
ムキになって答える琉風に、澪は何も言わずただ微笑んだ。
****
龍之城のはずれにある、古いながらも手入れの行き届いた建物の中を琉風と澪の二人は歩いていた。
「あーやっぱり見てて爽快だねー阿修羅って」
満悦そうな表情で澪は5個目のイグドラシルの実を口に放り込んだ。
「あ…あの…ごめんなさい」
「んー?今度は何?」
申し訳なさそうに謝ってくる琉風に澪は不思議そうに問いかける。
「イグドラシルの実、何度も使わせてしまって申し訳なくて…」
イグドラシルの実と言えば、回復剤の中では最高級に値するものである。
ヒールしようとすると、阿修羅の威力のために温存しておいてと言われてしまい素直に従ったはいいものの、
ソウルチェンジをしつつ実を次から次へと口に入れていれいくので、
普段そういうものを使うことのない琉風としては気が気でなかった。
「謝らなくてもいいよ。目の前で阿修羅が見れて逆に気分がいいくらいだ…ほら、次きたよ?」
「はい…!」
矢を放ってきたスナイパーの前に澪が立ってそれを防いでいる間に琉風が攻撃を仕掛ける。
『阿修羅覇凰拳!!』
『ソウルチェンジ!!』
『生命力変換!!』
スナイパーが倒れると同時に消耗した精神力がすぐに満ちていくのが分かる。
「南・北・西…うん、これで『あいつ』以外は全員沈めたかな?
…ちなみにラスボスは2階に上がって突き当たりの部屋にいるらしいよ」
「ということは…2階にはそいつ以外誰もいないってことですか?」
「リィがくれた情報だと残ってるのはハイウィザードとリィ二人だけってことになる」
「…それって随分無防備じゃないでしょうか」
「確かにね。理由はわからないけど人払いをさせたらしいよ?この情報もらってからwisを
強制遮断されてみたいで連絡つかないから、それ以降の情報はなんともいえないけど」
階段を一段上がり、琉風に向かって人差し指を立て唇に当てる。
「ありがたいことにこれだけ暴れているのに向こう様はまだ気づいてないみたいだ、ここからは静かにね」
澪の言葉に黙って頷くと、その後について階段を登り始めた。
きしっ…。
なるべく音を立てないように階段を登り、二人がいるという奥の部屋へと向かう。
奇妙なくらいに人の気配のない廊下を通り、目的の部屋へと近づいていくと、何か話し声が聞こえてくる。
逆にいえばこちらのわずかな音も聞こえることになるので、自然歩き方もさらに静かになる。
扉の前まで来ると、部屋の向こうの会話がはっきりと聞こえてきた。
「そろそろたまらなくなってきたんじゃない?すごいつらそうだよ?」
間違いなくハイウィザードの声だ。
ドアノブに手をかけようとした琉風の手を澪が素早く制する。
「中の様子がまだ把握できてない。俺が合図するまで突撃するのはもう少し待って」
澪の小声にまた琉風は無言で頷いた。
「…触んな」
少し苦しげな理の声も聞こえてくる。
「意外と固いんだねー。あの琉風って子以外とSEXするのはそんなに嫌?」
それを聞いた琉風の顔がさっと紅くなる。
あの言動で理と琉風が性行為を行っていたことが澪にわからないはずが無い。
澪に視線をやると、ドア口の様子を伺いながらぽりぽりと頭をかいている。
「人払いさせた理由がこれか。リィもやっかいな奴に目をつけられたな…」
琉風の心配をよそに、気にも留めていない様子の澪からはまだ合図は出ない。
今すぐにでも飛び込こんで会話を中断させたい衝動を琉風は拳を強く握ることで必死に押さえた。
沈黙のせいでドア向こうの会話が嫌味なくらいに良く聞こえてくる。
「てめーの好きになるのが気に食わねえんだよ」
「でも…今君のこと楽にしてあげられるのは僕しかいないんだよ?」
「触んじゃねぇっつってんだろ」
「こうすると気持ちいいでしょ?僕の中も、すごーく気持ちいいんだよ…」
「マジ殺すぞ…てめ…」
ばぎっ!
琉風は血がにじみそうなくらい握り締めた拳をドアノブにたたき付けていた。
丈夫そうなドアノブはあっけなく外れてごろりと床に転がっていく。
そのまま力いっぱい蹴り飛ばすと蝶番が吹き飛びドアは無残にも床に倒れた。
そのドアを踏みつけて部屋に乗り込んだ先は、ソファとテーブルがあるだけの殺風景な部屋。
部屋の隅にある柱に手首を手錠で拘束され、仰向けに寝転がされている理。
そしてその上に重なるように乗りあがっているハイウィザードの姿。
「……さ…わるな……触るなぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
叫んだ琉風に向かってハイウィザードが魔法の詠唱を始めた。
『スペルブレイカー!!』
澪の出した中断魔法に詠唱が途切れた。
「琉風!指弾撃って!!」
『指弾!!』
再度詠唱を始めようとした所に琉風の飛ばした気弾がハイウィザードを直撃した。
まともに食らったその身体は窓際まで吹き飛ばされる。
「琉風ー。合図するまで待ってって言ってたでしょ」
「……ごめんなさい…」
「まぁ、本当に二人だけだったみたいだし。あの間接セクハラ会話を聞きながらなら
我慢できた方かな?頭に血が上ってもちゃーんと俺の指弾の指示聞いててくれたし。上出来上出来」
顔を真っ赤にして視線を逸らした琉風の頭をくしゃくしゃと撫でると、
倒れているハイウィザードの所に近づいていった。
「ごめんなさいねーうちのツレがとんだご迷惑をおかけしちゃったみたいでー」
うずくまっているその身体をそっと助け起こして立ち上がらせる。
呆然として動かないハイウィザードをそっと抱き寄せて囁いた。
「これが最終忠告ね。俺のギルドに関わる人間に今後一切近づくな。もちろんあの子にもだ」
会話は聞こえるものの、澪は背中を向けているのでどういう表情をしているのかは後ろにいる琉風からは見えない。
ただ、自分から離れ、澪の表情を見たハイウィザードが真っ青になっていることだけは分かった。
「今度おいたをしたら………本気で潰すよ?」
そのままとん。とハイウィザードの身体を軽く後ろに突き飛ばし、
澪は手にした大百科辞典でその顔面を力いっぱい殴りつけた。
「………………」
悲鳴ひとつ上げずにハイウィザードの身体はのけぞり、開いている窓の向こうへと消えた。
ガシャーンッ
「えっ…あっ…今落ちてっ…!?」
琉風が慌てて窓の下を見下ろすと、丁度下にあるガラクタ置き場のようなスペースから
ハイウィザードの片足だけが出ているのが見えた。
「死んじゃいないよ。ただ、ものすごぉーく痛かっただろうけどね」
ダイヤでも仕込んであるのではないかという噂の大百科事典を手に澪は薄く笑みを浮かべている。
「は…はい…」
琉風はどこか恐怖を覚えるであろうその笑みに、ハイウィザードが真っ青になったのも頷けた。
「さて、と」
澪が開いていた窓を閉めると、理が拘束されている柱へ向かっていく。
「お助けに上がりましたよ?おーひーめーさーまっ!」
そのまま理の腹の上に勢いよく乗りあがった。
「…………マジ重てぇわ澪マス。太ったんじゃね?」
「俺自ら助けに来てやったのにお礼一つ言わずに可愛いこと言うのはこのお口かな?んー?」
澪が理の顎に手をからめて上向かせる。
呆気に取られた様子で琉風が見ていると、澪がそれに気づいて立ち上がった。
「リィ。『苦しい』だろうけどもう少しだけ我慢して?」
「あんたのそういうトコ…大好きだけど大嫌いだ」
視線を逸らして小さくため息をついた理に少しだけ微笑み返すと、琉風の方に小さなカギを差し出す。
「あの…」
いきなり差し出されたカギに戸惑っていると、澪からwisが来た。
『さっきあいつから拝借したんだよ。多分リィの手錠のカギだろう』
『はい』
目の前にいるにも関わらずwisで話しかけてきた意図を分かりかねないまま、琉風もまたwisで答えていた。
『これを君に預けるよ』
『え?』
『カギをどうするかは琉風の自由だ。リィを解放するのも、そのまま放置するのもね』
『…何言ってるんですか…?』
『リィはきっと媚薬を使われてる』
『…媚薬…?』
『あれ琉風、媚薬知らない?』
『知らないです。麻痺剤の一種ですか?』
『あ〜琉風は本っ当にかわいいなぁ〜』
『はっ…はぐらかさないで下さい!』
『媚薬はね、わかりやすく言えば催淫剤。もっと判りやすく言えばSEXしたくてたまらなくなる薬…かな?』
『…なんでそんなものを…』
『自分の意思とは関係なく性欲がわきあがって来るんだ。その性欲を満たしてくれるのが
自分の嫌いな、憎む人間しかいなかったら…おぞましいことこの上ないと思わない?』
『………思います』
『本当アコギなこと考えるよあのハイウィザード。見習いたいくらいだ』
『俺が』
『ん?』
『この状況で俺がもしこのままこの場を去ったらどうするつもりですか…?』
『んー。リィは表情にあまり出してないけどかなり堪えてるようだし、
その時はうちのギルドメンバーの誰かをリィの性欲処理に当たらせるよ』
『処理って…メンバーのことなんだと思ってるんですか!?』
『勘違いしないで琉風。別に意にそぐわない行為を強制させるつもりなんてない。
リィ相手なら喜んで身体を開くメンバーも中にはいるんだよ』
琉風の手を取り、澪はそのカギをその手のひらにのせてそっと握らせる。
何を考えているのかさっぱり分からない微笑を浮かべて同じ言葉を繰り返した。
『カギをどうするかは琉風の自由だ』
その言葉を最後に澪は振り向きもせずに部屋から出て行ってしまった。
理の方は出て行った澪に何を言うでもなく、ただ黙って天井を仰いでいる。
琉風はしばらくカギを握り締めた手を見つめていたが、やがてそのカギをズボンのポケットにねじ込んだ。
ずかずかと理の方へと歩いていくと、投げ出している理の膝の上を跨いで座る。
「何・顔面阿修羅でも食らわすのか?」
人を馬鹿にしたような口調はいつもと変わらないがいつもより何か余裕が無いように感じられる。
「媚薬…使われてるって聞いた」
「…あんの馬鹿マス・ほんと余計なことしか言わねぇな」
「かなり堪えてるって。だから……」
琉風は恐る恐る理のズボンのベルトに手をかける。
かちゃ…かちゃ…。
ベルトを緩めて次はホックを外そうと試みているらしいが、
どうも自分以外のものだと勝手が上手くいかないらしくもたついている。
「不っ器用だなぁ・手錠外してくれたらお手伝いいたしますけど?」
「うっ…うるさい!」
ホックをやっとのことで外すと下ろしたジッパーの中に手を入れ、理の雄を引き出した。
すでにそそり立っているそれに両手を添えて、ゆっくりと扱き始める。
「おいおい…どこでそんなフシダラなこと覚えてきたわけ?」
「あんたが教えたんだろ…!」
ハイウィザードの時のように、『触るな』と拒否されなかったことに少しだけ安堵しながら理の雄を咥えこんだ。
ちゃりっ。
理の手がびくっと動き、手錠の鎖が小さな音をたてる。
琉風は勢いよく咥えこんだ苦しさのせいでその音に気づかない。
息苦しさに目を細めるが、自分が理にされてきたことを
思い出しながら舌を当てて熱くなっているそれを舐め始めた。
頭を動かして口で扱き、唇で食んでは吸い上げる。
「んっ…んっ……」
こんなことをしている自分に対し、理がどんな顔しているのか
見るのも怖くてただ一心に目の前の雄を舌で舐め続けた。
ちゅぷちゅぷ。ちゅっ…。
苦しくて半分も咥えられず、咥え切れなかった根元の部分は両手で擦り続ける。
今まで自分はこんな大きなものを体内に受け入れていた。ましてや気持ちいいと
感じていたのかと思うと自分の身体がひどく淫らに思えてきた。
「…おい、口離せ」
琉風に自らの雄を咥えられてから一言も言葉を発しなかった理がはじめて口を開いた。
「離せっつってんだよ」
返事をしない琉風にもう一度言うとただ琉風は首を横に振るだけで離そうとしない。
「…馬鹿がっ…」
「ん…んんっ…!」
短いくぐもった声と同時に琉風はやっと理の雄から口を離した。
口の中に広がってきた熱くどろりとしたもの。喉にまでそれは勢いよく流し込まれ激しく咳き込む。
「離せつってんのにいつまでもしゃぶってるからだ」
「…苦っ…」
飲みきれずにこぼれた白い雫に、やっと理が達して口の中に放ったのだと理解する。
口の中には苦さが残っており、正直お世辞にも美味いなどとは言えない。
自分が理に同じことをされていた時、何食わぬ顔でそれを飲み下していたことを思い出して顔をしかめる。
「あんた…よくこんなの平気で飲んでるな」
「さんざんしゃぶり回しておいてとどめにこんなの呼ばわりかよ」
口の周りについているものをぐいっと手の甲で拭うと再び理の雄に手を添えた。
何度か手で扱き上げるとそこはすぐに硬さを取り戻す。
手を動かし続けながら琉風は空いている手を自分の緩めたズボンの中に入れた。
「そろそろお前もウズウズしてんじゃね?」
理は琉風の手がいった先を見逃さなかったらしい。
「…うるさい」
「うるさいなら塞げよ。両手は忙しいみたいだから・口使うしかなさそうだな」
それはキスをしろと言っているようなものだった。
「少し黙ってろよ」
「それともハズカシイ言葉で感じるとかか?それだったらいくらでも」
「いいから黙れよ…!」
キスとは言い難い、ただ唇を押しあてるだけの琉風の口付け。
理は素直にそれを受け目を閉じる。頭を少し起こすと自分の口を塞ぐ琉風の唇に深く合わせてきた。
くちゅ・くちゅ。とわざとに音を立てて舌を絡ませられると、琉風は自分がキスしているのか
理にキスをされているのか分からなくなってくる。
「ふ…ぅ…んぁ…」
どんどん硬く大きくなっていく理の雄を手で撫でさすりながら、もう片方の手を既に
先走りをたらしていた自身の先端に指をすりつけ湿らせると、それを自分の秘部につぷ…。と挿し入れた。
「ん……っ」
理の舌を自分の舌で受け止めながら秘部の指を抜き差ししていると、
理が膝を立て、琉風の足の間に割り入れてきた。
腿の部分が秘部に忍ばせている琉風の手に当たってくる。
まるで今琉風がしている行為を探るように。
「あ…ふぅっ…」
乱暴にかき混ぜることは怖くてさすがにできなかったが、それでも
少しずつ指を増やしていく。理の全てを受け入れられるように。
その口腔内で大きさを確かめただけに尚更だった。
「ふ…ぁ…」
指を引き抜くと同時に琉風は唇も離した。
「オレのこと犯すつもりか?」
自ら慣らした秘部に理の雄をあてがっている琉風に問いかけてくる。
「………」
違う、と言おうとした言葉を琉風は飲み込んだ。
否定はできない。
今自分ががしようとしていることは理が一番最初に自分に行為を強要してきた時と変わらないだろう。
それでもやめる気は琉風にはなかった。
「神に忠誠誓った神罰の代行者様が逆レイプかよ」
理に何も返さず、琉風はその身を沈めた。
「んっ…あ…あぁッ………あぁぁッ…………!!」
ためらうことなく、一気に理をのみ込む。
「あぁっふぁっ…んっあっ…」
琉風が動きはじめると、それに合わせて理が身体を揺すってきた。
力が抜けそうになった自分の身体を鍛えられている理の腹部に手を置いて腰を振る。
「お前まだイってねぇだろ」
先走りを垂らしながら震えている琉風の中心に感じる理の視線。
「うるさ…んっ…はっあぁっ」
「触れよ。自分でシたことくらいあんだろ?」
「やだっ…してないっ……あぁっ」
「ならオレが触ってやるか?」
「い…らな…あんたの手錠…絶対外さないからッ…あぁっ」
「まぁ、別にいいけどな?」
がしゃん。
何か金属の落ちる音。
「もう外しちまったから」
「あ…っ…?」
琉風の中心に巻きついてきたのは、手錠でつながれている筈の理の手だった。
理を拘束していた柱の側には外れた手錠と、鍵穴には琉風が持っていたはずのカギがささっている。
「どうしてっ…やっ…ああああぁぁっっ」
「さぁ…どうしてでしょう?」
そう言って笑う理の顔はいつも琉風がよく知る人の心を見透かすようなあの表情。
「あぁっあっあっあぁぁぁぁっっ!!!」
添えていた手を激しく扱くと理を内部に埋め込んだまま琉風はあっけなく放ってしまった。
脱ぎかけた琉風のズボンに。むき出しの理の腹部に。服に。
ばたばたと雫が飛び散っていく。
「犯すってんならこれくらいシろっての。じれったい動かし方しやがって」
半身を起こして両手で琉風の腰を掴むと、下から突き上げるように動かした。
「んぁぁっあっあぁっふぁっあぁぁっや…やぁ…っ!」
理の肩に手を当て腕を突っ張らせて逃げようとする琉風の身体を押さえつけ獣のように貪ってくる。
「あぁっあっあぁっんぁっあぅっあぅんっあぁぁぁぁぁぁッッッ!!」
腰をがっちりつかまれたまま、どくどくと体内に理の精液が流れ込んでくるのを感じて理の背中に思わずすがりついた。
「あ……うぅぅっ…」
最後の最後まで琉風の中に注ぎ込んだあと、やっと琉風の中から引き抜いた。
そのままぐったりと理に身を預けている琉風の身体を抱え上げ、すぐ側にあったソファに琉風の身体を倒した。
「あッ…!」
中途半端に下ろされていた琉風のズボンを引き抜き、上着にも手をかけられる。
抵抗する間もなく琉風は全裸にさせられていた。
「おら、四つんばいになってケツ突き出せ」
「やぁっ!」
無理やり四つんばいにさせられると、無防備に理の前に晒した秘部にいきなり3本の指を突き立てた。
「あぁぁぁあぁっっ!」
ぐぶぐぶと音を立てて理が中に出した精が腿を伝いソファに流れ落ちていく。
すっかりかき出したあと両手で琉風の臀部を揉むように掴んで左右に広げ、
かき回されて真っ赤にしているその秘部に舌を当ててきた。
「ひゃぅっ!」
入り口を舐めた後、内部へと舌をねじ込んでいく。
指でもない、雄でもない。柔らかいぬるりとした舌の感触。
「や…やぁっ…やぁぁっ」
くちゅくちゅと音を立てて舌を出し入れさせながら指が前に回り、琉風のものを扱く。
「そんなところっ…あぁっやぁぁっ舌入れないでっ…ヤァァァァァ!!!」
懇願する琉風に構わずさらに舌を奥へとねじ込んでいく。
「あぁっやっやぁっだめだめっやぁっやぁぁっ!!」
「あぁ…舌はコッチの方がよかったか」
「ひぁっ…!」
舌が抜かれたと思うと、立ち上がっている琉風自身を指でひと撫ぜされる。
「お前しゃぶられんの好きだもんな」
琉風の足の間に頭を挟めるようにして理がソファーの上に仰向けになると、
丁度琉風が理の顔の上を跨いでいるような格好になる。
「やっやだっやだっこんなのっ…やだぁぁっ!」
「腰落としてヤラシイとこ顔に擦り付けてみろ。目茶苦茶にシてやるから」
「待って…や…あぁぁぁっ!」
立てていた膝を広げられ、体制を崩した琉風は理の口に自らの中心を押し付けるような形になってしまう。
口を開いて理はそれを迎え入れ、琉風の太腿をゆったりと撫でながら指を秘部へと近づけていく。
「いっ………やァァァァァァッッッ!!!」
ねじ込まれた指がぐじゃぐじゃと音を立てて琉風の内部をかき回す。
「やだ…舐めちゃっ…嫌だっやぁっ指でかき混ぜないでっやっやだっあぁっあっんぁぁぁっっ!」
返事の代わりとでもいうように秘部の指をさらに増やされた。
「ひあぁぁぁっ!やぁっ指やだぁっ動かさないでっ舐めちゃやだ…やだぁ…」
琉風がうわ言のように繰り返してもいいように指と舌で嬲り続けられる。
この様を誰かが見れば琉風の方から望んで股間を相手の顔に擦り付けているように見えるだろう。
それくらい琉風の抵抗は口先でしかなかった。
「ふあぁぁっ…!」
何の前触れもなく理が動きを止める。
自分の唾液でぬるつく琉風の中心から口を離し、指の動きがゆるやかになった。
先ほどまでの激しさが欲しくて自分から腰を揺らしていることに琉風は気づいていない。
「続けてほしいか?」
「んっあぁぁっ…」
口を離して舌先で軽く舐めるだけの行為はもう琉風にとっては焦らし以外のなにものでもなかった。
「続けて欲しいなら『イかせてお願い』って泣き叫んでねだってみろ」
「…!…やだ…言わない…そんなの…!」
「言わねぇならずっとこのままだ」
理が指の動きも止めてしまう。
「や…やだぁ…う…うぅっ…」
寸での所で止められた苦しさで涙がこぼれてくる。
「媚薬使われてさんざん放置された挙句に手錠で拘束されたまま逆レイプされたオレの方が泣きたいっての」
張り詰めた中心に理の息がかかるのが分かる。それくらい間近で恥ずべき部分を見られている。痛いくらいに感じる視線。
「フェラして上乗って腰まで振った奴が今更だろ?さっさと言えよ」
「や……ァァ……」
一向に動こうとしない指。張り詰めたものには舌先でいたずらにつつかれるだけ。
欲しい。いっぱい舐め回されたい。
根元までしゃぶって舌を嫌というほど絡ませて、強く吸い上げてほしい。
秘部に埋められた指を、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜられたい。
耳を塞ぎたくなるくらい恥ずかしい音を立ててうんと激しく。
「……………か……せて」
側にいても聞こえるか聞こえないかの琉風の小さな声。
「聞こえねぇ。もっと大声で叫べ」
「イかせてっ…お願い…イかせてぇっ!」
「あー・全っ然聞こえねぇ」
聞こえない振りをする理にただ琉風は懇願し続ける。
「おねがい…イかせてぇっ…おねがいっ…おねが…っ…あぁっやはぁぁぁッッ!」
秘部に埋め込まれた指が動き始めて琉風の哀願が悲鳴にかわる。
「聞こえねえっつってんだよ」
言うなり放られたままの琉風にしゃぶりついた。
「おねがいイかせっ…あぁっやっあぅぅっあぁっんぁぁぁぁぁッッッ!!!」
身体を引こうとしても強く掴んだ理の手がそれを許さない。
ひくひくと腰を動かしながら必死にもがいた。
「やだ…口離して!!…出るっ…あっ…あぁぁぁっ…!」
「出せよ」
「やだぁっ口は嫌だ!お願い離してっ…」
「心配すんな。一滴残らず飲んでやるから」
「やだっ飲まないでっやだっやぁっ出る…だめやだぁぁぁぁッッッ!!!」
「『イかせて』ってお願いしたのはお前だろ?」
「や…やぁぁぁっやぁぁぁぁっっっ!!!もうっ…いっあっあァァァァァァァッッッッ!!!!」
吸い付くような舌の動きに耐え切れず、琉風は理の口の中に射精した。
「…っ…」
喉を鳴らして飲み下している音が聞こえる。
「…飲まないで…いやだぁ…」
言葉どおり、最後の一滴まで飲み干すつもりなのか琉風の中心から理はなかなか口を離さない。
「や…だ…」
やっと口を離され琉風の身体は仰向けにさせられる。
自分の顔を覗き込んでくる理を琉風は睨み付けた。
「目ぇ潤ませてとろんとした顔しやがって。そんなにヨかったのか?」
理からすれば琉風が睨んでいるなどと露ほども思っていなかったらしい。
「ちがっ…こんなの平然と飲むなよ…!」
「自分のまでこんなの呼ばわりか………お前の。ヤラシイ味して病み付きだぞ?」
「そんなわけないだろ…!」
「なんなら味見してみるか?」
「…っ!」
琉風の唇を塞いで口の中に残っていたものを口移しで流し込んだ。
「やっ!」
理のものを口で受け止めた時と同じ苦さが口の中に広がっていく。
何より自分で出したものという恥ずかしさですぐに口を離して拒んだ。
「お気に召さなかったか」
「あぁっ…!」
片足をソファの背にかけられ、もう片方を大きく広げられる。
「コッチの方は最後の一滴まで美味そうに受け止めてくれるのにな」
理が自らの雄を琉風の秘部に擦り付けてくる。
「やっ…嫌だぁっ!」
「やめねぇ・こっちはクスリまだ抜けてねぇんだよ。きっちり鎮めさせろ・お前のスケベな身体でな」
「あ…やだ…やだぁっ…!」
「お前のココだってまだ満足してないだろ?大好きなトコロたっぷり突き上げてやるよ」
「やだ!嫌だっ嫌だぁぁッッ!!」
「そんなに嫌なら。なんであの時出て行かなかった」
「…っ…」
さんざん騒いでいた琉風がそれを言われた途端に大人しくなって黙り込む。
「こうなることぐらい予想できた筈だ。それともオレがあのままお前にサれ放題で大人しくしてると本気で
思ったのか?大方あの教授に何か吹き込まれでもしたんだろ」
「違うっ何も言われてない!」
「だったら何だ。言わなきゃこのままブチ込むぞ」
「やっやだぁぁっ!入れないで!」
先端が内部へ潜り込み、琉風が盛んに首を振る。
「それともブチ込まれたくてわざとに言い渋ってるのか?」
「…そんなんじゃない…!」
「言え」
「…………腹…たったから…」
「あ?」
理とっては予想外の答えだったらしい。怪訝そうな表情で目を細めている。
「澪さんが…ギルドメンバーの誰かにあんたの性欲処理の相手をさせるって
…あんたなら喜んで相手するメンバーもいるんだって。それ聞いて…なんか腹たって…」
「なんでそこで腹立てんだよ」
「そんなこと聞くなよ俺だってわからないんだから!」
感情をそのままぶつけるように琉風は叫んでいた。
「もうやだ…こんなのやだっ…あんたに会ってから俺おかしくなってく…怖い…!…んぅっ!」
理の唇に言葉を封じられる。
「んっんっんぅぅぅぅぅっっっ………………!!!」
唇を重ねられたまま、琉風は怒張した理の雄に貫かれていた。
「やだ…やだぁっ!言ったら入れないってっ…やっあぁぁぁ!!」
「オレは『言わなきゃブチ込む』とは言ったが『言ったら入れない』なんて一言も言ってねえぞ?」
唇を離して叫ぶ琉風に構わず理はさらに奥まで咥えこませた。
「抜いてっ……やっ…やだぁぁぁッ!!!…んっ………!!」
続きを言おうとした琉風の唇を理が再びキスで塞ぐ。
「んっ…嫌い…俺のことどんどんおかしくしてく…あんたなんか嫌いだ…嫌い…んぅ…んっ…」
唇を何度も重ねながら理は自分の雄をゆっくりと動かし始める。
「だめっ……あっあぁぁっあぁぁぁぁッ」
ソファの背にかかった琉風の足が理に揺さぶられる度にぴくんぴくんと動いた。
「ひゃうぅぅっ!」
理の雄が迷うことなく探り当てた部分に悲鳴に近い声を上げる。
「ホントお前ココ大好きなんだな」
「ひあぁっあっあっんんっっひぃぃんっ!!」
探ったその部分を断続的に突くと子犬のような声を上げて琉風は鳴き続けた。
「やだ…やだぁ…『ソレ』しないで…しないでっ……本当に俺おかしくなる…おかしくなっちゃうよぉ…」
ぽろぽろと涙をこぼして泣いている琉風の唇を理がぺろりと舐める。
「おかしくなれよ…いっそそのまま狂っちまえ」
オレに。
「ひぁッ…!…あぁッんぁっひっあっあぁぁっあぁぁんっアァァァァァァッッッ!!!」
ささやくような理の声は琉風の悦楽の悲鳴にかき消された。
内壁を雄で押し広げていいだけ擦られ、既に知られてしまった琉風の性感帯を執拗に突き上げられる。
「あぁっあぁっあぁっあうっあぅっあうぅぅんッッ」
「随分気持ちよさそうな声出して鳴くな…そんなに『コレ』がイイのか?」
「あっあぁっあっ…いいっ…きもち…いぃ…っ…あぁっあっアッ」
「どこがイイんだよ」
「…お…お尻がっ…」
「お尻とか上品ぶった言い方スんなよ。何て言いえばいいか前に教えたろ」
「……っ」
琉風がその言葉を言うと、スケベ。と耳元で囁かれる。
ほんの少し前だったらそんな言葉言いたくないと拒んだろう。
それ以上に言わないことで、この状態のまま焦らされたり
放られるかもしれないと思うと耐えられなかった。
そんなことをされれば自分はきっと気がおかしくなってしまうだろう。
媚薬を飲まされた理が途中で行為を中断するつもりなど全くなかったのだが、
琉風は今の目の前の快楽を取り上げられることをただ恐れた。
それくらい溺れきってしまっていた。
「あぅっあぁっ…あっ…イくっ…あぁぁっ!」
触れてもいなかった琉風中心がすっかり立ち上がっており、絶頂が近いことをを訴えている。
「イくのか?…ったくどっちがクスリ飲まされてんだかわかんねぇな」
「あぁっあんっあぅんっあぁっああぁっあんっあっあぁぁぁぁッッ!」
理が動きを速めていくと琉風の鳴き声は一際高くなる。
「イけよ…スケベ声張り上げて自分の腹にブチまけろ」
「ああっあっイくっ…あぁぁぁっんぁっアァァァァァ…………!!!」
自ら放った精を自分の胸と腹部に、理の精を身体の内部に琉風はそれぞれ受けた。
「はぁ…はぁっ…あ…アァ…」
そのまま引き抜かれるだろうと思っていた理の雄は、ギリギリまで引き抜いた所で再び琉風の内部に沈められた。
「ひあぁぁぁッッ!!!」
吐き出された精を体内に残したまま理が出し入れを始めると琉風の秘部からぐぷっぐぷっと音を立てる。
奥を突かれる度に腹部に感じる圧迫感。苦痛と快楽を同時に味わわされていた。
「やだ…!抜いて…あっなかにっ…アァァァァッッ!!!」
「名残惜しそうに締め付けて誘ったのはお前だろ」
身体を引いて雄を引き抜こうとした琉風の腰を引き寄せると自分の精を体内に残したまま動き始めた。
「アァッだめっやァァァッ!離してっ…中の出させてっ…お腹変になるっ…やだっ離して!離してやだァッッ!」
「誰が離すかよ」
逃れようとする琉風の身体を抱きしめてくる。痛みを感じるくらいにきつくきつく。
「あ…あァ…っ」
「絶対・離さねぇ」
「やっ………やぁっ……アァッアァァァァァァッッッッ!!!」
澪は1階のロビーでwisを飛ばしていた。
『ひとまず、リィは無事ということで』
『教えてくれて助かったよ澪。ギルドチャットもwisもまるで反応なかったから心配だったんだ』
『まぁー本人から直接返事聞けるのはもうしばらく先だと思うけど』
『…どういうこと?』
『さっき媚薬のこと話したろ。現在進行形でまぐわい中』
『澪…もうちょっとソフトな言い回しをしようよ』
『やってる事は変わらないのにソフトもハードもないだろ。リィもあれ相当我慢してたんだな。
もう溜まりに溜まった鬱憤晴らしまくってますって感じ。あの子も大変だなぁ〜
恥ずかしいこと沢山言わされててさ。もう喘ぎ声っていうか、今はもう悲鳴に近くなってるね』
『まさかとは思うけど…悪趣味なことしてるんじゃないだろうな』
『視姦だなんてとんでもない。まぐわい会場は2階だよ?俺がいるのは1階。
ドアが壊れて音を塞ぐものがなくなったせいなのか、よく通る声なのか、
全部筒抜けてくるんだよ』
『…小1時間突っ込みたい所だけど。まぐわい会場はこの際聞き流そう。
俺が言いたいのはそうじゃなくて、澪がそれに混ざったりとかしてないよなって事だよ』
『あぁ、突っ込む所はそこですか。するわけないでしょう、あの子に嫌われたくないもの』
『ならいい。じゃあ相手は誰なんだ?うちのギルドはテロ鎮圧にいってるから
そっちのメンバーか…可愛そうなことをしたな』
『リィ相手だって言うだけでガッツポーズで喜びそうなのも中にはいるから
一概に悲劇とは言い切れないよ?まぁ相手してるのはうちのメンバーでもないわけだけど』
『待て澪!それはいくらなんでもまずいだろ!通りすがりの赤の他人なんかに…!』
『通りすがりの赤の他人っていうのが一体どこから来たのかそれこそ小1時間問い詰めたいけど
まぁ置いておこう。相手してるのはリィの恋人だよ』
『………え?』
『恋人っていうか恋人予定…かな。本人は黙秘してるけど相当惚れ込んでるねあれは』
『ええっっ!?』
『あの惚気っぷりは見ていて軽くイラっと来るぐらいだ。相手もリィのこと
かなり気に入ってる様子だしじき恋人になるんじゃないかな?』
『えええええええええええっっ!?』
『うん、お前の今の顔が見れないのが非常に残念でならない』
『あのリィがそんなに惚れ込むなんてどんな子なんだ……?』
『で、彩。ちょっと相談なんだけど』
澪は静けさを取り戻した1階のロビーでwisを続けた。